俺は今、穴が空くんじゃないかってくれぇ一人の女を見つめている



優しくてふわふわしている色白の彼女
華奢で手首なんか俺が力強く握ったら折れちまいそうだ



塾の休み時間。彼女は友達に囲まれて可愛らしい笑みを浮かべつつ談笑している
そんな彼女を俺はずっと見ている
今年は俺も彼女も受験生
受験が済めば塾に通う必要もなくなる
勉強しなくても良くなるんだから嬉しいが学校が違う彼女とは会えなくなってしまう


「(あぁ、俺は彼女がどこの大学に行くのかも知らねぇ…)」


彼女と会えなくなる。それだけを思うと胸が苦しくなる


「ほら勉強再開するぞー座れー」


先生の言葉にみんながそれぞれの席に戻る
彼女も友達と別れ俺の横の席に帰って来た


「いてっ…」

「どうしたの?」

「あ、いや…」


俺の親指から少し血が出た
ノートで切っちまったらしい


「あ、血が…」

「あぁ、いや、舐めときゃ治らァ」

「ダメだよ。口の中って菌が多いんだから!ちょっと待って」

「何?」

「あった、あった!」


彼女が鞄から取り出したのは花柄の絆創膏
彼女は粘着面を覆う白いフィルターを丁寧に剥がすと俺の手を優しく掴んだ


「花柄でごめんね」

「え、あ、や…」


俺の親指には可愛らしい花柄の絆創膏が巻かれていた


「…ありがとう」

「どう致しまして」

「いつも持ってるのかィ?」

「え?あぁ、絆創膏?」

「あぁ」

「ふふふ、私よく転んだりしちゃうんだ。だから出かけるときはいつも常備してるんだー」

「へー結構ドジなんですねィ」

「ドジなのかなぁ?」

「コラッ!そこの二人!黙ってやれ!」


コソコソと一応小声で話していたがバレて怒られてしまった
「怒られちゃったね」と少し困った様に笑う彼女を見て、何だかキュンとした



「沖田くん!」

「あ、」

「今から帰るの?」

「あぁ」

「そっか」


塾の授業も終わりやっと帰れる時間
外に出て長時間座っていて固まった身体を伸ばしていると彼女が中から出て来た


「じゃあ…」

「一緒に帰らねぇかィ?」

「え?」

「帰り、一人だろィ?」

「うん」

「夜道は危ねぇし送って行ってやらァ」

「うん!ありがとう」


彼女が笑ったから安心した
断られたりしたら俺はかなり傷ついたことだろう


「今日の数学難しかったでさァ」

「えー私、数学はまだマシな方かなー」

「マジでか」

「マジだよ。科学のが苦手かな」

「じゃあ今度数学教えてくれィ」

「おーいいよ!じゃあ沖田くん私に科学教えてくれない?」

「頑張りまさァ」

「ふふふ、やったー」


やった!これで次も話が出来る


「沖田くんはどこの大学受けるの?」

「S大でさァ、あんたは?」

「私はN大」

「(べ、別の大学…)」

「あ、家あそこだからもう大丈夫だよ!」

「え、あ、あぁ」


好きな奴と帰る帰り道は驚くほど早い
あぁ…次、塾があるのは明後日
明日は会えねぇんだなァ…


「送ってくれてありがとう」

「いや…」

「よかったら明日図書館に行かない?」

「え?」

「勉強、教えてくれる約束でしょ?」

「あ、さっきの…」

「嫌?」

「い、嫌じゃねぇ!行きやしょう!」

「ふふふ、じゃあ明日11時に駅前でいいかな?」

「あぁ」

「じゃあまた明日、バイバイ」

「さようなら」


彼女は俺に手を振り、自宅へと帰って行った
俺は人知れずにやけるのを堪えていた
明日は会えないと思っていた彼女に会える
しかも初めて塾以外の場所で会える


心の中でガッツポーズを決めて俺は自分の家路を急いだ
俺はこれから花柄の絆創膏を見るたびに彼女のことを思い出すんだろうな


おやすみまたね
また明日が愛しい今日


Thank you!
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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