「手塚くーん!」
私はフェンスの向こうから黄色い声を裂いて手塚くんを呼んだ
彼は私の低くも高くもない声を聞きとってくれたらしくこっちを向いてわざわざ私の前まで近寄って来てくれた(途端に上がる黄色い悲鳴)
彼は眼鏡が似合う私の素敵なクラスメイトです。
「苗字…練習中は相手が出来ないから来るなと言っただろう」
「でも手塚くん今私の相手してるよ?」
「…………。」
「ふふふっ」
手塚くんは眉間にシワを寄せた
彼は優しいからいつもこんな厳しいことを言いつつも私が来たらフェンス越しにちゃんと相手をしてくれる
ボールを打ってるときは流石の私も声をかけない(邪魔になるからね)
「部活はいいのか?」
「今日は休み」
「美術部は休みが多いな」
「どうせ行ってもやるかやらないかは自由だから変わりないよ」
私が所属しているのは美術部
美術室が開いていればいつ行ってもいい
やることは人それぞれ
特に先生からの指導があるわけでもない
美術室では絵を描いてる人もいれば粘土などをしてる人もいる
私も意欲が沸いているときは美術室に篭るからここには来ない
「手塚くん、コレあげる」
「…コレは俺か?」
「うん!」
私がフェンスの編み目から渡したのは授業中にルーズリーフに落書きしたもの
そこに描かれていたのは崩した絵柄の手塚くん
「ふふふ、似てるでしょ?」
「俺の眼鏡はこんなに吊り上がってない」
「イメージだよイメージ!」
「…授業中に落書きしてる余裕があるということは次の中間テストはさぞいい成績なんだろうな」
「うっ…」
「まぁコレは有り難く貰っておくとしよう」
手塚くんは少し笑ってジャージのポケットにその小さな紙をしまった
なんだか手塚くんが笑ってくれたのが嬉しくて、意味もなく私も笑ってしまった
自然と顔が綻びます