forever love番外編


「すいやせーん、みたらし下せェ」

「はーい!」


町にある小さな甘味処
味は上手いし何より看板娘が可愛いのなんのって!
その娘目当てに何人の客が足しげくこの店に通っていることか…


「お待たせしました。みたらし団子です」

「ありがとう、なぁ名前、一緒に食わねぇ?」

「ダメですよ沖田さん、私は今仕事中なんですからね」

「沖田さんじゃなくて総悟って呼んで下せェよ」

「ふふふ、じゃあごゆっくりどうぞ」


またかわされちまったか
俺ァマジで言ってんだけどねィ
毎日、毎日、毎日、毎日俺は名前に女中になってくれと頼み込むのに名前は首を縦に振らない。
この仕事が好きだから、店主が作った甘味を客が食して笑顔になってくれるのがたまらなく嬉しいらしい。
確かに俺は名前に惚れている。だから女中になってほしい。
けどそれだけじゃねぇ
気立てがよくて、世話好きで、お人よしで、働き者で、笑顔が可愛い名前はきっと女中に向いていると思うんでさァ


「おや、沖田さん、また仕事サボって名前ちゃん口説きに来たのかい?」

「オヤジからもなんとか言ってやって下せェよ」

「やなこった。名前ちゃんはうちの看板娘だぜ?そう易々と他には行かせねぇよ」

「ちぇっ」

「あんたもサボってばっかいねぇで名前ちゃんを見習ったらどうだい?」

「いいんでさァ、今日は特別だからねィ」

「特別?いつもと何も変わらねぇじゃねぇか」

「今日は俺の誕生日なんでさァ」


当然教えてねぇんで名前は俺の誕生日を知らない。
けど逢いたかった。もう夕方だし、誕生日が終わる前にどうしても好きな奴に逢いたかった。


「さて、団子も食ったしそろそろ帰るとするか」

「もう帰るのかい?」

「いい加減にしねぇと土方さんにマジで怒られやすから。みたらし、上手かったぜィ」

「はははっ、毎度あり!」


金を店主のオヤジに渡して俺は甘味処から出た。
もう少し居たかったけど今日は近藤さんに誕生日なんだから早く帰って来いって言われてるしねィ
なんかサプライズで祝ってくれるらしい。
近藤さん達は必死に隠してるつもりだけど俺にはバレバレだっつーの


「沖田さーん!」

「…は?名前?」


店からかなり離れたところで後ろから名前が追いかけて来た。もう店より屯所の方が近いくらいの場所だ。
名前は俺の前に来ると胸を押さえて軽く乱れた息を整えた。


「追いついてよかったー…」

「仕事はいいのかィ?」

「今日はもう終わりにしてもらったの」

「そうかィ、お疲れ様」

「お疲れ様」

「つーかどうしたんでさァ、あっ俺店になんか忘れてやした?」

「ううん、そうじゃないの、えーと…」


名前は少し言いにくそうな顔をして言葉を詰まらせた。


「今日…誕生日、なんだよね?」

「(…オヤジに聞いたのか)あぁ、まぁねィ」


その言葉を聞いて名前は少し俯かせていた顔をあげてキッと俺を睨んだ。
なんでィコイツ、可愛いじゃねぇかコノヤロー


「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか!」

「別に取り立てて言うことじゃないしねィ」

「うぅ〜…」


名前はまた俯いて唸りだした。
何だ?何がいいたいんだ?
名前の沈黙なら永遠と待ち続けられる自信はあるけど核心をつかない物言いに妙にそわそわとしてしまう。


「ちゃんと祝いたかったです…プレゼントとか買ってないしまだおめでとうも言ってないし…」

「…………。」


ボソボソと喋る名前は本当に残念がっているのかしゅとしてしまっている。


「…プレゼントは要りやせん」


俺は自分の手をスルッと滑らせて、名前の白く柔らかい手を優しく握った。


「沖田さ…!」

「送ってく。名前ん家に着くまで繋がせて下せェ」

「え、あ、あの…」

「ダメ?」

「ダ、ダメ、じゃないよ!」


少し赤くなった名前に微笑んで俺は足を進めた。
俺達の横を餓鬼が走り抜けて行ったり、自転車に乗ったおばさんが通り抜けて行ったりするのに俺達の周りの時間だけが緩やかに過ぎているような気がした。
暫く二人で黙ったまま歩いていたが、名前が突然歩みを止め、俺の手をキュッと握った。


「名前?」

「沖田さん、」

「ん?」

「お、沖田…くん」

「はい」

「そ、そ、そ…」

「そ?」

「そっ、総悟くん!」


緊張したのか声が少し裏返っていた。握り合っていた手に力が入っていた。
掌から伝わる名前の体温が生々しく、鼓膜を震わせたその声に、その台詞に、体中の血液が沸騰したように熱くなった。


「…総悟、くん」

「はい、」

「お誕生日おめでとう」


優しく微笑んだ名前を俺は心底好きだと思った。


「プレゼントはね、渡してあげられないし、今は店員とお客さんじゃないから…名前を呼ぶのがプレゼントの変わりだなんて言わないけど沖…総悟くんはいつも名前で呼んで欲しいって言ってたから、その……」

「ありがとう、ありがとう名前」


プレゼントも何もないけれど忘れられない誕生日だった。
嬉しかった。柄にもなく照れた。幸せだった。

いつまでも、いつまでもこの幸せが続けばいい




「……ご、そうご、」

「ん…」

「起きて総悟、晩御飯出来たよ」


肩を揺すられ目を開けるとそこは外ではなく屯所の縁側だった。
俺を上から見下ろしている名前の着物はさっきまで着ていた淡い色の着物ではなく、真選組の女中達が着る決められた着物と白い割烹着だった。


「……夢、か」

「夢見てたの?」

「おう、すっげー懐かしくて幸せな夢」


あの頃の名前の指には無かったものが、今俺が握っている彼女の指にはある。
それは俺の指にも嵌めてある夫婦の証だ。


「名前、」

「ん?」

「愛してまさァ」

「ふふふ、なあに?急に」

「んふふ、ちょっと言いたくなっただけでさァ」

「ふふ、私も愛してるよ総悟」

「ん、」

「そうご」

「ん?」

「お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう、大好きっ」


俺の方こそありがとう
俺を好きになってくれてありがとう
俺と結婚してくれてありがとう
神様、俺と名前を巡り会わせてくれてありがとう

俺は今も昔も幸せです。


END

沖田くん誕生日おめでとう

100708


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