かぷっ


そんな可愛らしい音がしそうな甘噛みをされた。
シャツを半分だけ脱がされて彼女に肩を噛まれたが肩には歯型一つついていない。
噛まれたというか唇で挟まれたくらいの緩さだ。


「国光」

「ん、」

「国光」

「…なんだ」

「ふふふっ、なんでもない。呼びたかっただけ」


俺の胸に頬擦り寄せながら笑うからなんだか擽ったい。


「痛い?」

「何がだ?」

「肩」

「…治ってどれだけ経つと思っているんだ」


彼女が訊いてきた「痛い?」は決して噛んだことについてではないと彼女の目を見たら分かった。


「痛くなることはないの?」

「あぁ」

「そう」


彼女はまた俺の肩を甘噛みした。

「どうした?」

「国光はテニスが出来なくなると悲しい?」


純粋に不思議そうに彼女は俺に尋ねた。
…テニスが出来なくなる
それは俺にとって俺の心と身体の半分を失うことと同じことだろう
テニスが出来て、いつも俺の隣に彼女がいるから俺の心は満たされる。
もしどちらか一つでも失ったとしたらその気持ちを表すのに悲しいなんて言葉じゃきっと足りない。
肩を痛めたときも悲しいなんて気持ちじゃなかった。


「国光?」

「あぁ、すまない」

「ごめんね、変な質問して」


彼女は俺の背中に手を回して小さくて細い腕で精一杯俺を抱きしめた。


「国光が好きなだけテニスが出来たらいいね、国光が二度と悲しい思いをしなきゃいいな、国光がずっと私の隣に居てくれたらいいな…」


そう言って彼女は俺の肩に柔らかく唇を押し付けてキスをした。
俺は力加減も忘れて強く、強く彼女を抱きしめた。


「苦しいよ、国光」

「ずっと、ずっと一緒にいよう…」

「うん」


胸が詰まって少し泣きたくなった。
未来のことなんてどうなるか俺にはわからないけど、ずっと彼女と一緒にいたい。
大好きなテニスをやりながらずっと彼女と寄り添って生きていきたい。


宇宙とかそんな遠くじゃなくていい
君が泣かない場所にいきたい


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