今、僕ら青学テニス部は合宿中だ。
今日はたまには休養も必要だということで(合宿中なのに)練習はお休み。
みんなそれぞれ違う休日の過ごし方をしている。
僕は普段みんなが集まる一階の食堂で読書。乾は僕の向かいの席で何やら紙に書き込んでいる。
越前、桃城組は外に遊びに行った。
英二、大石組はコートでテニス
カチローカツオ堀尾はそれを見学しているみたいだ。
海堂とタカさんは気づいたらいなかったから知らない。
手塚はたぶん2階、臨時マネージャー組は外で洗濯物を干しているみたい。


「不二くん、乾くん!大変だよ!」

「どうしたの?」


今回の臨時マネージャー兼手塚のちょっとバ…ちょっと脳みそが幼い彼女の名前ちゃんがバタバタと慌てた様子で食堂に走り込んで来た。
今回は竜崎先生のお孫さんとその友達以外に彼女にも臨時マネージャーとして手伝ってもらっている。


「大変なんだよ不二くん!乾くん!」

「うん、だからどうしたの?」

「蛇でも出たのか?」

「あのね、あのね!お仕事終わったから手塚くんとお話しようと思って2階に行ったら手塚くんがお昼寝してるの!」


名前ちゃんは僕の隣に座ると興奮気味に喋りだした。
いや、彼も人間なんだし昼寝くらいするんじゃないかな。
まぁ僕は手塚の昼寝よりあの無口無表情の手塚に彼女がいることの方が信じられないけどね。


「確かに手塚の昼寝とは珍しいな」

「だよねー!手塚くんがお昼寝なんてイメージ出来ないよ」

「いいデータが取れそうだ」


乾はニヤッと笑った。そんな乾を見て名前ちゃんは不思議そうに首を傾げていた。


「乾くんどうしたの?」

「名前ちゃんは気にしなくてもいいんだよ」


僕がにっこりと笑って返すと彼女もつられてにっこりと笑った。
こういうところが可愛いんだろうな。


「さあ!データを取りに行こう!」


意気揚々とノートとシャープペンを持って乾は席を立った。
まったく、人の昼寝のデータなんかとってどうするつもりだ。
なんて思いつつ僕の手にはしっかりと愛用のデジカメが収まっていた。


「ねぇ?寝てるでしょ?」


僕らはギシギシと古い音がする階段を上り、手塚が寝ているという部屋の障子からまるでトーテムポールのように顔だけを覗かせた。
手塚は確かに寝転んでいたけど僕らに背中を向ける形で横になっているから本当に寝ているのかはよくわからない。


「そうだ、名前ちゃん」

「なに?」

「手塚のことひっくり返してきてよ」

「うん、それがいい。俺達がやると手塚に怒られる確率87%」

「え!?手塚くんを俯せにするの?」

「違う違う、顔が見えるようにこっち向きに転がすんだよ」

「大丈夫だ、苗字なら手塚がその行為で睡眠を妨げられても怒れない確率99.9%」

「(随分高い確率なんだね…)」

「わかった!行って来ます隊長!」

「うむ、気をつけて行ってこい軍曹」

「はいであります!」


やっぱりこの子バカだ。
名前ちゃんは静かに手塚に忍び寄り手塚の正面に回った。
一生懸命手塚の肩を押しているけど手塚はなかなか転がらない。
名前ちゃんは転がすのを諦めて乾の前まで戻ってきた。


「無理であります隊長!」

「データのためにも頑張るんだ軍曹」

「隊長も副隊長も手伝って下さいであります!」

「僕が副隊長なの?」

「不二、そこにこだわる必要はないだろう」

「ん…」

「「「!」」」


三人でこそこそと小声で揉めていると手塚が寝返りをうって俯せになってしまった。

「隊長!更に無理になったであります!」

「うん、もうめんどくさいからエーイ」

「きゃっ!」

「ちょ、不二…!」


めんどくさくなって名前ちゃんの肩を押すとよろけた彼女は手塚の真横に尻餅をついた。


「んん、」

「て、手塚くん?」


僕と乾はさっと隠れ彼女と手塚の様子を見守った。
手塚は眉間にシワを寄せて唸ってからうっすらと目を開けた。
名前ちゃんのいる方向、つまり僕らと向かい合う形になったけど彼は僕らの存在に気づいていないみたいだ。
僕は取りあえず眼鏡をかけていない寝起きの手塚を写真に収める。


「名前、か…?」

「そうだよ、おはよう手塚くん」

「名前…」


手塚はなんだか寝ぼけているようで名前ちゃんの手をぎゅっと握って彼女の名前を呼び出した。
僕はその様子を撮っていく。
乾はニヤニヤしながらノートに何かを書いている。こんな情報がなんの役に立つんだろうか。


「名前、名前…」

「手塚くん?」

「んん、名前…」

「わっ!」


手塚はとうとう名前ちゃんの腰に手を回して彼女を抱き枕にしてしまった。足もガッチリ絡めている。
名前ちゃんが腕の中に収まったことで安心したのか手塚はまた寝てしまった。
身動きがとれない名前ちゃん
当然彼女は僕らの存在を知っているので僕らと目が合ってしまい真っ赤になった。


「乾ニヤニヤしすぎ」

「手塚のこんな姿はなかなか見れないからな。不二だって写真撮りすぎだ」

「クスッ、起きたときの手塚の反応が楽しみだね」


僕と乾は名前ちゃんを残して静かに障子を閉めた。



それから1時間くらい経った頃
名前ちゃんが食堂に来て今度は乾の隣に座った。

「やあ苗字、よく眠れたかな?」

「クスッ」

「乾くんも不二くんも意地悪だ!」

「今頃気づいたのか」

「ところで手塚は?まだ寝てるの?」

「手塚くんは…」

「俺がどうかしたのか」


噂をすればなんとやら、手塚が食堂に現れて名前ちゃんの横に座った。


「やあ手塚、さぞいい夢をみたことだろう」

「?何の話だ」

「クスッ、起きたら名前ちゃんが腕の中にいたでしょ?」

「…あぁ(何で知ってるんだ)」


手塚は眉間にシワを寄せた。
名前ちゃんは少し赤くなっている。


「はい、コレ」

「…何だコレは?」

「手塚がそれを見て驚く確率9.8%」


僕はさっきプリントした写真を白い封筒に入れて手塚に渡した。
手塚は不思議そうにそれを受け取ると中から写真をだして絶句した。


「なっ…!!」

「ふ、不二くん…いつの間に…」

「よく撮れてるだろう?」

「ほう…なかなかの腕前だな不二」


一緒に写真を見ている三人の反応が違い過ぎて面白い。
乾は写真の出来に感心、手塚は驚いた後に難しい顔をしながら次々と写真を見ている、名前ちゃんは赤くなりながら写真をめくる手塚の腕をペチッと叩いている。


「いつから見ていたんだ…」

「いつからだと思う?」

「いいデータを取らせてもらったよ」

「………………。」

「手塚くん、お、怒らないでね、私がね不二くんと乾くんに手塚くんがお昼してるよって言ったの…ごめんね…」


手塚はしゅんとしてしまった名前ちゃんの頭に手を乗せて優しく撫でた。


「クスッ手塚も人の子だったんだね」


笑顔で言ったら彼は名前ちゃんの頭に手を乗せたまままた眉間にシワを寄せた。

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