「だからグリップの握り方はこうです!」

「ぎゅっ!」

「違います!あと足の位置は…ここっ!」

「ここか!」

「違う!ここです!そして下半身は少し落とす!」

「んっ!」

「あぁもう全部違ぁぁぁあうっ!!(バシッ)」

「痛ッ!叩かないでよ!」


ボクは今テニスコートの隅で制服姿のクラスメイトとラケットを振り回しながら揉めています。


「………柳沢さん」

「何だーね、裕太」

「観月さんと一緒にいるあの人誰ですか?」

「あいつは観月のクラスメイトで観月の隣の席の奴だーね」

「観月さんの彼女ですか?」

「たぶん違うだーね」

「でも観月さんとあんなに言い合える女子ってなかなかいませんよね?しかも観月さんがテニス教えてるし…」

「何気に凄い奴だーね」

「ふーん…なかなか可愛い人ですね」


柳沢と裕太が二人の様子を見ながらコソコソと話しているとまた二人が揉め出した。


「いったッ!なんでお尻叩くの!セクハラか」

「貴女なんかにセクハラはしません。セクハラする程の魅力も感じません」

「失礼な奴だなっ」

「貴女程ではありません」

「観月の馬鹿!男女!」

「なっ…!女男の貴女には言われたくありません!」

「女男じゃないもん!ちゃんと女の子だもん!」

「ボクだって違いますよ!歴っきとした男子中学生です!」


ボク達は言い合いをしながら裕太くんと柳沢がいるコートに近寄った。


「裕太くんでも柳沢でもどちらでも構いませんから少しこの方の相手をしてやってくれませんか?」


彼女の背中を軽く押して柳沢と裕太くんの前に突き出した。


「え、観月さんが相手してあげないんですか?」

「ボクは制服が汚れるので嫌です」

「じゃあ俺がやってやるだーね」


柳沢は反対側のコートに走って行って位置に着く。


「いつでもOKだーね!」


柳沢がやたら大きな声で叫ぶから煩い。


「サーブって上から?下から?」

「好きな方からどうぞ。やりやすい方法は人によって違いますからね。まぁ下からの方が簡単だとは思いますが」

「とりあえずボールを打ってあっち側に入りさえすれば柳沢さんがどんなボールでも拾ってくれると思いますよ!」

「よしっわかった!上からやってみる!」

「ボクのアドバイスは無視ですか」


彼女はボクの呟きを華麗に無視してテニスボールを上に放り投げてラケットを振り下ろした。


「わっ!当たった!」

「ちょ…!」

「ぶふっ!」


意外にもボールはガットに当たりネットに引っ掛かることはなく相手のコートまで飛んでいった。
彼女は初めてサーブが打てたことに感動していましたがボクと裕太くんはたった今起こったアクシデントに顔を赤くした。


そして柳沢は普通に初心者では絶対に無理なスピードでボールを打ち返してきた。


「うぇーあんなの間に合わないよー…柳沢ー!もっと手加減してよー!」

「すまんだーね!つい本気で返しちまっただーね!」

「もうー…もう一球いくよー!」


彼女がもう一球サーブを打とうとしたのでボクは彼女がラケットを握っている方の手を引っ張った。


「何?」


振り返った彼女は訝しげにボクと裕太くんを見た。
裕太くんはまだほんのりと頬を赤く染めていてどこを見ているのか目を逸らして彼女を見ようとしない。


「何?どうしたの観月?」

「…きょ、今日はもう終了です」

「なんで?」

「なんでって…あー…あれです、ほら、テニス部だって練習をしなくてはいけません。いつまでもお遊びのためにコートを占領していたら迷惑ですよ」

「あーそうだねぇ、ごめんね、えーと…裕太くん?」

「え、あっ、い、いえ!」


裕太はやっぱり少し顔を赤くしていた。


「ではボクらは先に失礼します」

「バイバーイ」


柳沢と裕太くんに別れを告げてなんとなく流れからボクが彼女を送ることになった。


「ところで何故突然テニスをしたいなどと言い出したんですか?」

「ん?んー…」


ボクの中指と人差し指に違和感を感じたので見てみると彼女がその二本だけをきゅっと握っていた。
けれどそれもすぐに離された。


「ただ観月が大好きなものを私もやってみたかっただけだよ」

「なっ…!!それはどう言う…」

「ふふふっ」


彼女がボクの指を握る意味も、彼女の言葉の意味の深意もよくわからないけど少し照れながらはにかむ彼女に何も言えなくなってしまった。


「ねぇねぇ観月ー」

「…なんですか」

「なんで私がサーブ打ったときに裕太くんも観月も顔赤かったの?」

「それは…」


少し言いにくい。
ボクは口を何回か開いたり閉じたりを繰り返した。
言えないわけではないが言ったらまた彼女はキャンキャン喚くのだろう。そうなると少し煩い。


「ねぇなんでー?」

「はぁ仕方ない…」

「ん?」

「制服でテニスをしていた貴女が悪いんですよ」


ボクは無意識に前髪を指先に絡ませていた。


「下着…」

「は?」

「貴女の下着が見えたんです」


あの時、サーブを打ったとき彼女の短いスカートがほんの少しだけめくれ上がったのだ。
少しだけめくれ上がって見えた彼女の下着と白い太股はガバッとめくれ上がってダイレクトに見えるより厭らしく感じた。


「な、な…!!」

「…不本意です。見たくて見たわけではないので吠えないで下さいよ」


真っ赤になった彼女が吠えだす前に釘を打つ。
しかし彼女は吠える様子はなくスカートの裾をギュッと握ると俯いてしまった。


「あ、あの…」

「うっう〜…最悪だぁ…今日お気に入りのやつじゃないんだもん…」

「は?」


彼女は何を言っているんだ。
観点が違う気がするのはボクだけだろうか。
ボクは彼女の的外れな意見に思わず笑ってしまった。


「何で笑うの!」

「んふっ、すみません。大丈夫ですよ可愛い下着でした」

「うわっ観月変態!」

「人がせっかくフォローしてやったのに」

「くそー今度テニスするときは絶対可愛いの履いとくからね!」

「次にテニスをするときはジャージでしなさい」


色恋はなかなかシナリオ通りにはいかないものですね。


END

ただ観月くんのペースを乱す女の子が書きたかっただけ

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