中に入り、薄暗い道を少し進むと井戸とその横に柳があった


これはアレか…
井戸から貞子的なものがおぼろしゃァァァア!!!みたいなアレか



「坂田くん!坂田くん坂田くん!」

「なななななに!?」

「あの井戸絶対クるよね!?クるよね!?私が腰抜かしても置いてかないでね!一人で先に行ったりしないでね!」

「だだだ大丈夫!置いてかねぇから!(寧ろ苗字さんが俺を置いてかないでね!)あの井戸ぜってークるよ!なんかもう貞子クるき満々じゃねぇか!あと3歩くらい近寄ったらぜってークるよ!スタンド的な何かがァァァア!!!」



あ、ヤッベ
ちょっ…俺手汗やばい
苗字さん引いてねぇかな…
ちょ、おまっ、ヤバくね?
これ引かれない?ちょっ…ヤバくね?
いったん離して手ぇ拭いた方がいいよ、な…?



「苗字さん、ちょっと手…」

「!離しちゃヤダ!」

「(あばっ…あぶぁばばばば、おま、あばっほわっちゃァァァアッ!!!)」



手汗が気になっていったん苗字さんの手を離そうとしたら苗字さんが俺の手をぎゅっと握って、更に腕にぎゅうっとしがみついてきた
うぉぉおっ!なんだこれ!
あれか今日俺死ぬのか!?
死ぬ前に運全部使い切っちまおうぜ!みたいな?!



「あの〜…後ろつかえるんで早く行って下さい」

「「あ、すみません」」



井戸から出てきた貞子に注意されちまったよ
どんだけ長いこと居たんだよ
注意するほど俺らうざいですか?邪魔ですか?



まぁなんやかんやで貞子ゾーンは通り過ぎ恐る恐る足を進める俺と苗字さん



「うわ〜…生首だよー…生首ーちょっとなんでそんな三つも並べてんだよなんでみんな頭が落ち武者みてーなんだよ三つも並べる意味わかんねぇよー」

「!さ、坂田くん!あの扉で最後だよ!」

「マジでか!」



ようやく最後の部屋か…
だが最後の部屋に行くにはサイドにゾンビが居る牢屋がある通路を通らなければならない
通路なのにサイドに牢屋がある意味がわからねぇ
ゾンビ自体はその牢屋から出てはこねぇが、手がね…ゾンビの手がこう、うようよ牢屋から出てるわけよ



「無理無理無理無理!私こんな気持ち悪いとこ通れないよ!ヤダ恐いよ!」

「ちょっ、ゾンビてめーらふざけんじゃねぇぞコラァァァア!その手をしまえバカヤロー!」



まぁ怒鳴ったとこでしまうわけねぇんだけどな



「これでも…二人で並んで行ったら完全にゾンビに触れるよな……」

「やだやだ!あんな気持ち悪いのに肩触られるくらいなら肩切り落とす!!」

「じゃ、じゃあ俺が先に行って安全性確かめるよ!」



安全性も何も両肩にゾンビの手が触れるくらいだろうが…
嫌々手を離した苗字さん
俺は唾をゴクリと飲み込み
いざっ!



「うおぁぁぁあっ!!!」



勢いが良すぎて止まれずにびたーんっ!と壁にぶつかった
だぁぁぁぁあっと勢いよくゾンビだらけの通路を駆け抜けた
肩にゾンビが触れたような気がしたがぶっちゃけそれどころじゃなかった右をチラ見しても左をチラ見してもゾンビゾンビゾンビ…!
とにかくビビりながらも俺は通り抜けた!あとは苗字さんだ



「苗字さん!大丈夫だから!」

「や、やだ…恐いよぉ…」

「大丈夫!思いっ切り駆け抜けろ!俺が受け止めるから!」

「で、でも…」

「大丈夫、俺を信じて」



坂田くんは力強い目で私を真っすぐ見ている
ドキドキしている私
ゾンビにドキドキしているような坂田くんにドキドキしているような…
とにかくいつまでもこんな所にいるわけにもいかないので、私は坂田くんを信じてこの気持ち悪い通路を通ることにした



「い、行くよ!思いっ切り行くからね!」

「おう!」



深呼吸をして真っすぐ前を見る
すぐにぎゅっと目を固く閉じて真っすぐ走り抜けた
途中何回か肩にゾンビの手が触れた



怖くなった私は走るスピードを上げてドッと坂田くんの胸に体当たりした
坂田くんはよろめきながらもしっかりと私を受け止めてくれた



「うぇっ…さか、ひっく…坂田く、恐かったよ…肩、ゾンビ、触れて、うぐっ…」

「よしよし、もう大丈夫だからな?ほら泣き止んで、次の部屋行こうぜ」



緊張と恐怖が入り混じって私は泣いてしまった
坂田くんは優しく頭を撫でてくれたり背中をポンポンっと叩いてくれたりした



B級ラブロマンス


坂田くんの手は驚くほど優しくて温かかった


090623


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