私は剣道部のマネージャーになってからトシが負けるのを片手で数えられるくらいしか見たことがなかった


金高剣道随一の腕を持つと言われている沖田くんでさえトシには勝ったことがない


そんなトシが今、押されている


いつも練習にはちゃんと参加せずただ体育館に来ては騒いで笑っているだけの坂田くんが今は別人のようだ
面を付けてるから表情は分からないけど雰囲気がいつもと全然違う


体育館にピリピリとした空気が漂って見ているこっちが緊張するような試合を二人は繰り広げている



「意外か?」

「え?」

「銀時のあんな姿」



横に居た高杉くんに言われた
意外…意外と云うよりは坂田くんのこんな姿想像もしていなかった
いつも高杉くん達とふざけて笑っている坂田くんが、あんなに強いなんて知らなかった



「銀時は他校の奴らから白夜叉って呼ばれてんだよ」

「白夜叉……」

「あいつ一年の時に全国大会まで行って、その大会の優勝候補だった奴に一本も取られず勝ちやがって、その時から白夜叉って呼ばれる様になってな。白髪の馬鹿みてぇに強い奴がいるって」

「全然知らなかった…」

「ま、その大会では結局優勝できねーまま終わったけどな」



以前トシが言っていた
剣道をやっている人で坂田くんを知らないやつは居ないだろうって
私ホントに全然知らなかった



「胴ッ!」

「一本っ!坂田の勝ち!」

「くそっ…!!」



審判をしていた近藤さんが響いた
トシが負けた



「ぶあー!あっちー!マジ汗くせー風呂入りたい」



悔しがるトシをよそに挨拶もしないで坂田くんは面を取り、さっきの姿は嘘だったかの様にいつものヘラヘラとした笑顔で此方に来た



「どうだった?苗字さん」

「凄い…」

「あり?それだけ?」



凄いとしか言い様がなかった
あのトシを息つく暇もないくらい坂田くんは押していた
隙を与えず攻めたてるその姿は夜叉だった



「…凄い……凄いよ!坂田くん!」

「え、あ、お、おう…」



照れた様に少し目を反らして頬を掻く坂田くんに何故かキュンっとなった



「?」

「ん?どうした?」

「あ、ううん!何でもない!」

「苗字さん俺、その、か、かっこよかったか?」

「うん!かっこよかったよ!すっごくかっこよかった!」

「そっか」



そう言って汗を流しながら嬉しそうに笑う坂田くんは、キラキラと輝いていた



そんなきみは知らない
不覚にもときめいたのは私だけの秘密



(坂田テメーもう一回だ!)
(ぷぷぷ、何度やっても同じだよ大串くん)
((やっぱりときめいたなんて気のせいかも知れない))


090406

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