「遅い!」
「ごめんね。急に監察の仕事が入ってさ…」
苦笑いを浮かべながら謝るこの男は私の彼氏、山崎 退。彼女の私が言うのもアレだけど、地味だ。そしてカッコイイ訳でもない。それから、真選組の隊士。そのせいか、久しぶりのデートも遅刻が多い。今日だってそうだ。
「あーあ、私お腹空いた」
「え?」
「だから!お腹が空いたの!」
「ああ、じゃあ、ファミレスでも行こうか」
監察のくせに、気が利かない。
「私、ショートケーキ。」
「じゃあ俺は…」
「退、退、このプリンにして!それで私に一口ちょうだい?」
「…仕方ないなあ」
我ながら我が儘だとは思う。でも、あんまり会えないんだもん。少しの我が儘くらい聞いてくれたって良いと思うの。
「退…」
「んー?」
ショートケーキも食べたし、退のプリンも3分の2くらい私が食べた。仕方ないよ、美味しかったんだもん。
少し前を歩く退に小さな声で呼び掛けた。退は振り向かず返事をくれた。
退は、私みたいな我が儘な子が彼女で嫌じゃない?そう聞こうと思っていた。
勇気を出して口を開いた時、退が私の腕を引っ張り、抱きしめた。
「さ、が…」
「危なかったよ?」
車に轢かれる所だったよ、と安心した様に笑った。その瞬間、私の顔に熱が集まるのがわかる。
「わ、かってるよ!退が助けてくれなかったって大丈夫だったし!」
退の胸を押し、前を早足で歩く。何でこう…可愛い言い方が出来ないんだろう。ありがとうくらい、言ったって良いモンなのに。
一人落ち込んでると退に名前を呼ばれた。
「…分かってるよ。我が儘だったって、俺はそんなとこも好きになったんだから」
そう言ってまた微笑んだ。
私は一生彼に敵わないみたいだ。