彼を好きになったあの日から、私の想いは停まりません!


「はぁ…」

「やーね、また溜め息?」

「恋をしたあの日から私の部屋は二酸化炭素だらけです…」

「何も可愛くないわ」


私は只今いつものように教室で机を三つくっつけてお妙ちゃんと神楽ちゃんと昼食中です。


「今日こそ告白するんでしょう?」

「やっぱりやめようかな…」

「は?」

「だってコワいんだもん!」


フラれちゃえば山崎くんとせっかく仲良くなれたのにギクシャクしちゃうかも知れないし…


「コワがってちゃダメネ!早くしないとジミーとのラブラブランデブーな春は行ってしまうアル!」

「ラ、ラブラブランデブー?」


タコさんウインナーを口に放り込んだ神楽がお箸で指差す先には、愛しの山崎くんとうちのクラスのマドンナが仲良さげに談笑していた(近い近い近い!距離が近いよお二人さん!)


「何アレ!?なんで!?」

「ジミーは地味アルけど堅実な奴だから微妙にモテるらしいアル。地味だけど」

「地味でも私にとっては王子様なの!」

「ハッ、恋なんてシャボン玉ヨ。うかうかしてたら風に吹かれてパチンッ!アル」

「それもそうね……。よし、名前ちゃん」

「はい」

「前髪を切りましょう」

「はい?」


なんでこのタイミングで前髪切るの?ていうか、今お妙ちゃんが私に差し出してるソレ、文房具のハサミ…


「前髪が長いと視野も狭まって気持ちまで縮こまっちゃうわ。前髪を切ったらなんか少し明るくなれるでしょう?」

「確かにそうだけど…」

「ハサミ突き出したりして三人で何の話してんの?」

「「「!」」」


足音もなくヒョコッと私の背後から山崎くんが現れた。
あれ?マドンナは?


「(ちょうどいいわ、今言いなさい)」

「(えええぇぇっ!?無理無理!ていうか絶対今はナイ!!)」

「名前ちゃん?」


山崎くんはその少したれ目な黒い瞳でテンパる私の顔を覗き込んだ。


「ト…」

「ト?」

「トイレ行ってきます…!!」

「え、あ、ちょ…名前ちゃん!?」


私はあの空気と山崎くんの地味だけど整った顔に堪えられなくなり、猛ダッシュで教室から飛び出した。そして手には何故かお妙ちゃんのハサミを握っていた。


「ぁぁぁあっ!!トイレ行ってきますとか大声で言っちゃったよー!」


誰もいない女子トイレで発狂する私


「ほんと…情けない顔、」


鏡に映る私の顔は、情けない意気地無しの顔だ。


「それでさー…」

「うそ!?マジで!?」

「!」


遠くに聞こえた女子の声に反応して何故か個室に隠れてしまった。(私は何も悪いことしてませんよ!)


「それでね、私…」


あ、これはマドンナの声だ。


「私ね、山崎くんに告白しようと思うの」


ななななななんだってーー!!
あのマドンナが山崎くんに告白!?


「ちょー、マジで頑張んなよーエリカ超スタイルいいし美人だし絶対あんな平凡な奴イチコロだって!」

「う、うん…」


八つ裂きにしてやろうか女子A!
平凡な男子の何が悪いんだ!平凡男子っていうジャンルがあってもいいくらい山崎くんは平凡で素敵だから!


「ぶっちゃけあんたのクラスの名前って奴が山崎のこと好きらしいけどエリカには敵わないって!」

「そ、そうかなぁ」


おいィィィイッ!!私の淡い恋心をバラした奴誰だァァアッ!!
沖田くんか!?沖田くんしかいないよね!沖田くん後でちょっと体育館裏に来い

暫くダラダラと喋っていたマドンナと女子Aだったけど、ようやくトイレから出て行ってくれたので私は個室から出た。

好き放題言ってくれたな女子Aよ。
ていうかあのマドンナが山崎くんのこと……
ってことはマドンナの告白が上手くいって二人が付き合ったりしたら私はもう山崎くんに思いを伝えることも出来ないの……?



私は俯いていた顔を上げ、グッと鏡の中の情けない自分を睨みつけた。


ハサミを握り直し、前髪をバッサリと切った。
ハラハラと散ってゆく私の髪
鏡に映った私はさっきのネガティブな私じゃない

やっぱり山崎くんのいない毎日なんてありえない
山崎くんを想って泣いた夜も、山崎くんと過ごす日々の楽しい時間も、今の私は後悔なんかしない!


若干オカッパ感が否めないけど、私はトイレから飛び出して山崎くんを探した。
廊下を歩くあの見慣れた後ろ姿。
いたっ!あの後ろ姿は絶対山崎くんだ!


「山崎くんっ!」


彼はゆっくりと振り返り、呼び止めた相手が私だと分かると、口の両端を少し上げて笑った。
私は山崎くんの元まで走る。



「山崎くん!あのねっ─…」



窓の外は、青々とした空がどこまでも広がっていた。