過去を振り返ってみても、俺はあんまりアイツの名前を呼んでいなかった気がする。
もっぱら「お前」や「おい、」で呼んでいたように思う。
それでもアイツは嫌がらなかったし、こんなどうしようもない俺の側にいつも居てくれた。

アイツは生まれつき体が弱かった。それでも笑ってた。生きていた。俺を愛し、俺に愛されていた。



「うぃ〜…ただいまあ〜…」

「銀さんっ!!」

「…ッ!」


長谷川さんとキャバクラで酒を呑み、ほろ酔い気味で夜中に万事屋に帰ってきた俺を、新八が思いっきり殴りやがった。


「…ってぇな!何しやがんだ!!」

「あんたこんな大変なときに今までどこに行ってたんですか!?」


よく見ると新八は何故か泣きそうになっていて、既に何度か泣いたのか目が赤くなっていて頬には微かに涙が流れた跡があった。


「大変って何が…」

■■■■


新八の口から告げられた言葉に俺の酔いは一発で冷め、俺は万事屋を飛び出した。
気持ちだけが焦って足が縺れた。
何回か転んだけどそんなこと気にしちゃいられなかった。
大江戸病院に今すぐ飛んで行きたかった。


「はぁ、はぁっ…」

「うっ…銀ちゃん…」


勢いよく開けた病室の扉
そこには泣きじゃくる神楽と神楽の肩を抱いているお妙
お登勢のババァに真選組の奴ら
白衣を着た医者に看護師

それと、何本もの管を体に繋げたお前


「なん、だよ…これ…」


足が震えた。手が震えた。声が震えた。
なのに、頭では分かってんのに、俺の目は潤んですらくれなかった。

「んだよ、これ…寝てるだけ、だろ?なぁ…寝てるだけだよな」

誰も俺と目を合わさない。
重い空気の中、医者がゆっくりと口を開いた。

「…今夜が峠です。残念ですが助かる確率は……」

俺は静かに彼女の名前を呟いた。
それに対する返事はなくて、病室に響いたその静かな声にゾッとした。

「うっ、うっ…」

神楽がベッドに縋り付くと、少しだけお前の手が俺の手をなぞった。

何やってんだよ、何やってんだよ、何やってんだよ、何やってんだよ、何やってんだよ…!!
俺は何をやってたんだよ!!
時間を戻したい!この役立たずの両手なんか無くなればいい!

気づいていた。知っていた。
お前は生れつき身体が弱くて、次に倒れたらもう未来はねぇって医者から言われてたのを。
お前はいつも俺がちゃらんぽらんでも笑ってて、自分の身体のことも俺には何も言わなくて…
だけど俺は知っていた。気づいてた。
なのに俺は知らない振りをしていた。気づいていない振りをしていた。
これは俺への天罰だ。
怒った神様が俺の大事なもんを奪おうとしてるんだ。


俺はそっと、横たわる彼女の左胸に耳を当てた。

トクッ、トクッ…

動いている。微弱ながらも心臓は機能している。
こいつは生きている。
もっとこの音に耳を傾ければよかった。もっと名前を呼べばよかった。何回でも呼んでやるから早く目ぇ覚ませよ、覚ましてくれよ。


なぁ、お前の名前ってこんなに美しいものだったっけ?


「…っ目ぇ覚ませよ…」


息が出来ない程抱きしめた。
神様がお前を連れていけないように。俺とお前が離れねぇように。



■■■■



ピーーー──……


なぁ、お前の名前ってこんなに美しいものだったっけ、

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