君が死んだ日

世界の何人が君の死を知ったのだろう

世界の

何人が笑って

何人が泣いて

何人が死んで

何人が生まれて

何人が君の死を悲しんだのだろう

世界の

天気は

晴れか

雨か

曇りか

雪か

嵐か

どれが一番多かったのだろう


俺が死んだ時は

世界中の天気は晴れがいい

世界中の人が笑っていて

世界で一人、誰かが生まれればいい

死人は要らない

俺が死んだら誰か一人生まれるんだ

俺の死を悲しむ人は要らない

俺は死んでも悲しくないから

だって君に逢えるでしょ?




「ナメてんじゃねぇぞクソガキが…」

「うあっ…あ゙ぁ…!」



地面に涎を垂らしながら転がっている男の手を踏んだらメキメキっと音が鳴った
町中が寝静まっている午前四時
誰にも見えない路地裏で俺にボコられている男の名前を俺は知らない
彼女の葬式のときに一度見ただけ
だがそのたった一度が俺に殺意を与えた


家族、友達、みんなが泣き崩れる中でコイツは言った

『やっぱりな、アイツは変だったから自殺なんてしたんだよ』

『頭が可笑しかった。学校に来てもいつも頬杖ついて空ばかり見ていた』

『気持ち悪かった気味が悪かった。変だとは思っていたけどまさか自殺するなんてな』

『欝だったんだって可哀相な奴』



彼女は可哀相な奴じゃなかったし
気持ち悪い奴でもなかったし
変でもなかった
君は死んだ
死にたがりだった君の望みは叶った?
君はなんで死んでしまったのだろう
追いかけるなんてことはしないけど、君が言っていた通り世の中が腐っているように見えてきたよ
昔から腐っていたけど俺はそんなに気にしていなかった
君が死ぬ前まではこれが普通なんだと思っていた



「なぁ?お前死にたいか?」

「い、嫌だ…!!殺さないでく…がはっ!」



俺の足に縋り付いてきた男の腹を蹴り上げる
ビチャビチャと異臭を放ちながら胃酸とまだ消化されていなかった食べ物を吐き出した



ねぇ、君は最後に近づくに連れ笑わなくなったね
俺の前でも友達の前でも笑わなかったのに、たまにヘラヘラと一人で笑ったり鼻歌を唄ってたりした
その歌がなんの歌かわからなくて訊いたら即興の創作だ。だから同じ歌は二度と唄えないと言っていた
俺は素敵だねと答えた
本当にそう思ったから



「なぁ、なんでお前今俺に殴られてんの?」

「…あ゙ぁぁあ゙ぁあっ…!!!もっ…許し…ぐあっ…うッ、」



ミシミシだかメキメキだがそんな音が鳴った
男の足を本来の向きと逆の方に曲げてやるとボキッと骨が折れた
踏ん付けた腕もきっと折れただろう
男は俺から逃げようと何度も地面を這いずり回るのにそれは叶わない
男の周りは汚物と血で塗れている
口からは血と涎を垂れ流して目からは涙が溢れていて、笑えるくらい滑稽だった


なぁ、なんだか前が霞んで見えないんだ
君はもうこの世に居ない
何処にも居ない
悲しいのか痛いのかなんなのかもうわかんねぇよ
頭が痛い鼻の奥も痛いし腹も痛い



「はぁ、はぁ…」

「…ぶぇっ、うぶ…ッ…」

「…アイツに逢ったら土下座して謝れよ?」



俺は懐から液体が入った小瓶とライターを取り出した
小瓶の中の液体、オイルを転がっている男にぶっかけた



「や、やめ…ッ!!殺さないでくれ…!」

「……………。」



俺は無言でライターの火をつけた
暫く揺らめく火を眺めていた



「あっ…あぁあ…!!」



男は泣きながら失禁した
汚ねぇなぁ…
今から彼女を侮辱したことを謝らせに逝かそうとしてんのにそんな汚ねぇ格好で逢いに逝くのかよ



「まぁ、いいや…」



オイルの中に火のついたライターを置くと瞬く間に男は燃え上がった
俺の目に映る色は赤一色


日が昇る


嗚呼、また君がいない朝が来る















「怖いですね」

「何が?新八茶」

「あ、はい。今朝この近くで放火事件があったらしいですよ、家が丸々一軒家焼けたらしいです新聞に載ってました」

「へー」

「死亡者は三人。外にいた一人は何も判別出来ないくらい黒焦げ、家には老夫婦が住んでいたが火元と思われるその黒焦げの人からの引火で家は全焼。老夫婦は就寝していたとのこと、推定時刻午前四時頃の悲惨で残酷な放火事件…ですって」

「おー怖いなーお前も帰るとき気をつけろよ」

「ちょっと銀さん!帰りずらくなるようなこと言わないで下さいよ!」



その老夫婦が死んだことで死者は三人になった

きっと世界のどこかで一人、赤ん坊が生まれたんだ



男を殺したあと君にありがとうと言われた気がした







090804

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -