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銀ちゃん先生。私の家庭教師の先生。週二回家に来て、今年大学受験を控えた私に勉強を教えてくれている。






「銀ちゃんせんせー、ここわかんない」

「はいはい」



どこ?と言いながら上体を乗り出してくる先生の顔が近くて、私は机の下で足をもぞもぞとさせる。室内は暖房をつけているけれど、お気に入りの赤いブランケットは先生に貸してあげた(押し付けたとも言う)ので、制服のスカートのプリーツが太股の上に散らばっているのが自分からはもちろん隣の先生からもよく見える。学校が終わってから先生が来るまでには時間もあるのだけれど、あえて着替えずに出迎えるのが私のポリシーだ。制服のスカートから露出した足は女子高生のブランドだ。私はしっかりと認識した上でその武器を行使している。


中古のスクーターに乗ってやってきたぼさっとした大学生を見て、初日の授業が終わったあとお母さんはすぐさま「やっぱり先生を変えてもらった方がいいんじゃないかしら」と言った。そもそも男の先生って聞いた時点でお断りすればよかったかしら、教え方はどうなの?当の本人である私よりも事を重大視しているお母さんに若干鼻白みつつ、私は「別にフツーだよ、このままでいいよ」と答えた。

理由はひとつ。銀ちゃん先生に一目惚れしたので。


実際のところ先生の教え方は至極適当であり、ほどほどのやる気で高時給のバイトをこなしていた。しかし私の成績が下がればすぐに先生のせいにされるのは目に見えていたので、私は勉強を頑張った。試験でいい点数をとれるようになって、お母さんも上機嫌、私も偏差値が急上昇。結果的には先生のおかげということだ。私ってやればできたんだなあということに気付けたし、そのやる気のエネルギー源である先生に出会えたのだから家庭教師をつけてもらったのは間違いではなかった。

家庭教師に恋なんて、自分で言うのも何だけれどなかなかベタだと思う。二人きりの密室という環境でどこまで踏み込んでみるか、その瀬戸際のことで私の頭はいつもいっぱいだ。



「失礼します。調子はどう?」

「あ、どーも」



初めに言っていたことなんて都合よく忘れたようにすっかり先生を信用したお母さんは、最近授業が半分過ぎた頃を見計らってお茶を出すようになった。お節介おばさんそのままのにやにや顔で机の上に広げられた参考書を覗き込んでくるお母さんから、余計なことを言い出される前にトレイを受け取って追い出す。トレイに乗っていたのは、いれたばかりのお茶とシンプルなケーキ。先生は「んじゃ休憩タイムな」とペンを置いた。私は伸びなんかして息を吐くけれど、先生は相変わらず全く同じテンションだ。



「このケーキね、私がつくったんだよ」

「ほォ〜。お菓子なんてつくんだ」

「まあ、気が向いたときとかだけど。はいっ先生、口開けて」



素直に感心されたのがむずがゆくて、ごまかすように更にこっ恥ずかしい行動に出てみた。先生はあくまでローテンションのまま、あ、と口を開ける。まさか素直な反応を返されるとは思わなかったので、私の方は中途半端な距離でフォークを止めたまま固まってしまった。先生が訝しげな視線を私に送ってきたので、その口が何か言おうとする前にフォークを突っ込んだ。



「んぐっ、む、オイ!」

「えへへ、おいしい?」



やや苦しげな先生に笑顔で感想を尋ねた。先生は口いっぱいに押し込まれたものをしばらくもぐもぐと咀嚼しているので、私は手に持ったフォークで残りのケーキから一口削って口に運んだ。間接キス。頭の中でぽんっと浮かんだ単語に唇が弧を描きそうになるが、何とかこらえる。こんなにも私ばかりが先生のことを必要以上に意識して、ときどき馬鹿馬鹿しくも思うのだけれど、好きになってしまったのだから仕方ない。



「…うまい」



一人言のようにぽつりと呟いた先生が不意打ちすぎて、私は再び固まった。そろりと上目遣いに先生を見ると、つい溢れてしまったのだろう言葉に先生自身もしまったというような表情で口元を片手で覆っていて、私の方が赤くなってしまう。

先生、銀ちゃん先生。そんな反応をされたら、恋に恋する女子高生の私は簡単に舞い上がらされてしまうんだよ。






押してはみたけどこれもう引いちゃってもイイ的な?





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企画「食べて仕舞おう」様へ提出
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
 
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