「そういえば北城さんの好きな人って誰なんスか?」
「…え?」

思わず、握っていたシャーペンを落とした。動揺しすぎ、と笑いながら拾ってくれた黄瀬くんに、ぎこちなくお礼を告げて受け取る。なんでいきなり、そんなこと。

「ほら、こないだあの子が俺を好きじゃないからって諦めらんないって話した時、わかるよって言ってたから」
「…ああ」

確かに、そんなこと言ったっけ。あの時は黄瀬くんの気持ちが痛いくらいわかって、私自身もつらくて、なんだかあまり考えないで言葉を発してしまったんだ。まさか黄瀬くんが覚えてて、しかも言及してくるなんて思わなかった。どうしよう、なんて答えればいいの?

「いっつも話聞いてもらってるからさ、たまには相談乗るっスよ」
「え、い、いいよそんな。私が好きで聞いてるだけ、だし…」

好きで聞いてる、なんて嘘。聞きたくなんてないしあの子を想う黄瀬くんの表情なんて見たくない。でも、傷つくことはわかってても、私を頼ってくれることが単純に嬉しくて。私の存在が少しでも黄瀬くんの助けになるのなら、なんて考えてしまうのだ。

「北城さんさ、俺と同じ状況ならすげーつらいはずじゃん?でもいつも笑ってるから、強いなって思ってて」

眉を下げて笑う黄瀬くんに、それは違うよと心の中で返した。強いわけなんてない。あなたを困らせることが、フラれることが怖くて、自分の気持ちも伝えられないんだから。
黄瀬くんの声が、笑顔が、私の胸を詰まらせる。彼の優しさが嬉しくて、同時にとても痛かった。この気持ちを彼に告げたら、いったいどんな顔をするんだろう。

「たまには弱音吐いてもいいんスよ?」
「大丈夫、だから…」
「大丈夫って顔してないっスもん」

頭に、ぽんと温かいものが置かれた。大きなそれは黄瀬くんの手のひらで、じんわり伝わってくる彼の体温に涙が滲んでしまいそうになる。なんでそんな、優しくするの。私に気を遣ってくれるの。

「…つらいよ」
「ん」
「すっごくつらい、何回も泣いたよ。でもいいの」

口からぽろぽろ零れ落ちる言葉たち。そっと相槌を打ってくれる黄瀬くんの優しさが胸に染みて、けれどやっぱり痛くて。せめて彼に心配をかけまいと、無理矢理笑顔を作ってみせた。

「その人と一緒に居れるだけで幸せだから、いいの」

これは私の、精一杯の強がり。伝わらなくても、叶わなくても、幸せだ、と。気を抜けば溢れそうになる涙を必死で押さえつけて、黄瀬くんにバレてしまわないよう笑った。


行き場のない想いさえ
私の嘘に気付いて

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