※高尾誕


「おつかれっしたー」


体育館から響く部員たちの声。その中に紛れる彼の声を聞き分けることが出来る私は、相当アイツに惚れてると言っていい。


「高尾!」
「えっ、莉乃!?」


なんでいんだよ!と目を丸くして駆け寄ってくるコイツ、高尾和成の誕生日は今日である。いつもいつも可愛いげのない言行で高尾を困らせてる私は、今日くらいはコイツに愛情表現をしなければと部活が終わるのを外で一人待っていたのだ。


「おつかれ」
「いや、おつかれじゃないっしょ!なにしてんの」
「…待ってた」
「だったら中で見学してりゃよかっただろ、風邪引いたらどーすんのよ」
「気合いで治す」
「アホかおまえは」


呆れ顔で頭を叩く高尾は、この寒いのに流れる汗をかいていた。…やっぱり、相当ハードなんだろうなあ。一年生にしてレギュラーだもんね、そりゃいろいろしんどいだろうに。まあ、それ以上に楽しそうだからいいんだけど。


「…あのね、高尾」
「ん?」
「一緒に、帰りたい」
「…!」


高尾の練習着の袖を掴んでそう言えば、面食らったような表情で私を見て、そして目を逸らしてしまった。も、もしかして迷惑だった、とか…!
若干の後悔に襲われていると、体育館からもう一人、反則並みの体格をした男がのそりと出てきた。出た、緑間真太郎…!


「なにをしているのだよ、高尾、綾瀬」
「あ、真ちゃ、」
「緑間!」
「?何だ」


でかすぎて首が痛い。この男を常に後ろに乗せてリヤカー引いてるんだから、高尾は相当体力があると見える。下睫毛があまりに特徴的な彼にあくまで強気な視線を送ると、これまた面食らったような表情をされた。緑間の場合はすぐに怪訝そうな表情に変わったけども。でも、ここで怯んだら負けだ!


「…いつも高尾取っちゃうから、今日くらい、私にちょーだい!」
「は?」
「ちょ、莉乃」
「今日は緑間には渡さないから!」


呆れたような顔をして、勝手にするのだよ、と体育館に戻ってしまった緑間。ふっ、勝った!いっつもいっつも高尾と登下校しやがって、今日は高尾は私のものだもんね!


「…なーに可愛いことしてくれちゃってんの」
「今日はいくら緑間でも譲れない」
「わお、俺愛されてるぅ!」
「…うん、そーだよ」


恥ずかしいながらもそう答えると、高尾はえ、と短く溢し、顔を真っ赤にして慌て出した。なんであんたが慌てんのよ、慌てたいのはこっちだっつの!高尾が取り乱すなんて珍しい。まあ私、普段こんなこと言わないもんね。そりゃびっくりするか。私も自分でびっくりしてるんだから。


「も、もういいからっ、早く着替えてきてよ!寒いし早く帰ろ?」
「お、おう」
「あの、高尾っ」
「ん?」

「誕生日、おめでとう」


体育館内へ足を向ける高尾を呼び止めそう言うと、高尾はにやりと笑って私のところに戻ってきた。な、なんだなんだ。早く帰ろうって言ってるのに…!
不思議に思って高尾を見上げると、力いっぱい腕を引かれ、高尾の胸に飛び込む形になってしまった。


「ちょ、たか、!…んっ」
「……んじゃ、着替えてくるから待ってて」


へらへらといつもの調子でそう言い放つと、足早に体育館へ戻っていった高尾。…触れた唇から伝わる熱が身体中に広がって、寒さなんて忘れてしまった。

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