アレンが行ってしまって、一週間が経った。不思議なもので、まだ一度も泣いていない。きっと、実感が湧かないからだと思う。アレンがノアなんだということも、勝手に消えてしまったことも、…私が、逃げ出したアレンを見つけられなかったことも。


「おはようリナリー」
「…おはよう、莉乃」


食堂でリナリーに遭遇し、声をかけるも彼女は軽く返事をしてそのまま通りすぎてしまった。…あの日から、リナリーはあまり笑わなくなった。彼女は唯一、逃げるアレンを見つけ出した人物。アレンはリナリーに別れを告げて、方舟の中へ消えていったそうだ。私が発見した時、リナリーは地面に崩れ落ちてわんわん泣いていた。
アレンは、僕はエクソシストだと、そう言ったらしい。何があってもそれは変わらないから、と。…だったら、何故。そんなことを繰り返し考えて、虚無感に襲われて、思考を止める。実感は湧かないくせに、心に穴があいたような感覚は確かにある。きっとどこかで理解はしているんだろう。けど、やっぱりアレンがいなくなったという事実が、受け止めきれないのだ。
アイツは、いったいどこで何をしているのだろう。彼女であるはずの私に何も言わないで消えて、どこをほっつき歩いているのだろうか。


「…っ」


アイツが考えることくらい、私にわからないわけがなかった。いっつも自分は後回しで、他人にばかり気を配って。相手が幸せになれれば、自分はどんなに不幸になっても構わないんだ。


『今までありがとう。幸せになって、莉乃』


聞こえるはずのないアイツの声が、頭で繰り返し鳴っている。きっとあんたは、こう言いたいんでしょ?
実感が湧かないんじゃない、認められないんだ。何事もなかったように、帰ってきてくれたら。いつものように、見てるだけで胸焼けするような食事を目の前でしていてくれたら。そんな哀しい想像をしては、隣にアレンがいないことに絶望するのだ。


「帰ってきてよ、バカ…」


私の幸せのために、なんて思ってるんでしょ?アレンのいない未来なんて、何一つ幸せじゃないよ。アレンがいなきゃ、楽しくない。悔しいことに、アレン無しでは世界が色を失う程度には、私は彼に惚れているのだ。

ジェリーさんに作ってもらったパンプキンスープが、ぐらりと揺れた。

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