「はあ…」


本日11度目のため息である。




少し遅めの夕食後、なんの気なしに談話室に立ち寄ってみると莉乃がソファーに座ってぼんやりしているのが見えた。
日々激しさを増す戦争の最中、任務続きの毎日で恋人であるにも関わらず莉乃を見るのは久々だった。
惚れた弱みとはこのことで、こんなに可愛くない女でも見かければ嬉しい気持ちが湧いてくる。気付けば声をかけていて、莉乃の隣に腰掛け話し込んでしまった。…まではいいのだが。


「…久々に会えたのに寝ますかね普通」


僕の肩でぐっすり眠る、莉乃。規則正しく聞こえる寝息に、僕は再びため息をついた。僕だって男ですよ、もうちょっと警戒しろアホ。


こいつが寝始める前、会えなかった間の話をいろいろ聞いた。ジョニーにチェスを教えてもらっただとか、ラビにごはん連れてってもらっただとか、神田と任務で喧嘩しただとか。…僕に嫉妬させたいのかとも思ったが、このバカがそんなところまで考えて話すはずもなく。天然でやっているのだからタチが悪い。
が、まあ良い気はしないのが本音だ。教団員の男女比的に男とばかりいるのは仕方のないことかもしれないが、それでもムカつくものはムカつく。


「…ったく、小悪魔め」


頬をぐにっとつねってやった。少しは僕の身にもなれってんだ。このバカが比較的可愛い顔立ちをしていることも、誰からも愛される性格であることもわかってる。いつか誰かにとられるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしてるのは内緒だ。


「…ん、アレン…?」
「あ、すいません起こしちゃいました?」
「んー…ごめん寝ちゃって…」
「いいですよ別に寝てても。疲れてるんでしょ?」
「そんなことないよ?せっかく会えたのに寝るなんてもったいない…」
「いいから」


起きて僕の肩から頭を離した莉乃を、再び僕の方へ抱き寄せる。せっかく会えたのに、という点では同意だが、疲れてる莉乃をわざわざ起こしてまで話したいとは思わない。そんなことないとか言いながら目が虚ろだし。


「…アレン」
「…なんですか」
「好き」
「…っ、早く寝ろバカ」
「ふふ、かわいー」
「…僕の中の雄が反応を示す前に早く寝ろ」
「ば、ばか!…おやすみ」


そう言うと、再び莉乃から寝息が聞こえはじめた。…この女、明日の朝は思いっきりイタズラしてやる。

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