これの黄瀬視点


なまえとのデートで都内にやってきた。たまーに女の子に視線をもらいつつ、黄瀬涼太とバレないよう上手いこと回避しながら買い物して。休憩にマジバに入ったはいいが生憎満席で、どうしようかと立ち往生している時に聞き覚えのある声がして。呼ばれた方に振り向けば、そこには見知った二人の姿があった。

「桃っち!青峰っちも!」
「やっぱりきーちゃんだ!あ、じゃあ隣の子、噂の彼女さん?」

大きな瞳をキラキラ輝かせてなまえを見つめる桃っちに肯定で返すと、それはもう楽しそうに彼女の手を握りぶんぶん振っていた。てか噂のって、まじで噂になってるかんじ?桃っちだから知ってるとかじゃなくて?まじかよ、と苦笑しつつそんな二人を眺めていれば、相変わらず不機嫌そうな青峰っちが桃っちにブスとか言い出して。店のど真ん中で口論を繰り広げる二人になまえは心配そうな表情を浮かべ俺を見上げてきたので、いつものことだと告げとりあえずほっとくことにした。結局その後満席なことに気付いた桃っちが相席を提案してくれたから、結果オーライってことで。

「ごめんね桃っち青峰っち、お邪魔しちゃって」
「あ、ありがとう」
「いいよ全然!彼女さんとお話してみたかったし!」

なまえが気まずいかな、と思ったが立ち往生して注文したものが冷めてもあれだし。まあ俺が適当にフォローすりゃいいか、と考えての相席だったが、ちょっと失敗だったかもしれない。桃っちがなまえに興味津々すぎて、なまえが萎縮してしまっているのだ。まああんまコミュ力ある子じゃねーしな。スカートの裾をきゅっと握って明らかに緊張している様子のなまえに、自らの手をそっと重ねた。途端にぴくりと肩を揺らす彼女が可愛くて可愛くて。桃っちに遠回しになまえが気後れしてることを告げると、慌ててなまえに謝る桃っち、にまた横から余計なことを言う青峰っち。また喧嘩されても面倒なので、とりあえず適当に宥めておいた。ほんと、青峰っちがどんだけ変わってもこの二人は変わらないな。
なまえに桃っちと青峰っちを紹介して、二人にも彼女のなまえですと紹介して。彼女というワードに照れたのか、少しどもりながら挨拶をするなまえに笑みが洩れた。重ねた手のひらでなまえの小さな手を撫で、強く握られた拳を解かせる。そのまま指を絡めれば、なまえはまた肩を揺らして。隙を見て睨んではくるくせに手は拒まないのだから、本当どんだけ可愛いんだよとニヤケを抑えるのに必死だった。

「きーちゃんがベタ惚れって聞いたよ。ほんと?」
「なんでそんなことまで知ってんスか…」

ちょっとちょっと、まじでなんで知ってんのこの人。つーか情報収集するにしても恋愛事情まで把握する必要ないよね?苦笑しながらそう返せば、ふふ、とにっこり笑うもんだから桃っちが本気で怖くなった。この子だけは敵に回すのやめとこう。

「なんだおまえ、こういうのが好みか」
「青峰君は黙ってて!ねえねえきーちゃん、なまえちゃんのどんなところ好きになったの?」

え。そんな質問が来るとは思わず、少し動揺した。俺のポジション的にもなまえのキャラ的にも周りに冷やかされることってなかったから、なんだか新鮮だ。ふと横を見ればまだなにも言ってないのになまえは赤くなっていて、これは今好きなとことか言おうものならもっと可愛い反応見せるな、なんて思って。けれど、そんな可愛いなまえを俺以外の男に見せるのは、なんか癪だ。

「んー?内緒」
「えー教えてよ!」
「俺となまえの秘密っスよー」

おどけたようにそう言えば、キモい、と言わんばかりの目でなまえは睨み上げてきて。そんな彼女に桃っちは、容赦なく同じ質問をぶつける。自分に回ってくると思っていなかったようで噎せたなまえの背中を擦ってやれば、桃っちは俺らを幸せそうに見つめてきた。

「ラブラブだねえ。にやけちゃう」
「や、あの、」
「で、どこが好きなの?」
「それ俺も聞きたいっス」
「おまえ自分は答えなかったくせに!」
「二人の時にいくらでも言ってあげるっスよ」
「言わなくていいっつの!」
「いーから答えろよ」

追い討ちをかける青峰っちの言葉に、なまえは真っ赤になりながら俯いてしまった。少し可哀想な気もするが実際どこが好きとかなまえの口から聞いてみたいし、それに赤くなるとこも可愛いし。なまえの言葉を待っていると、ボソボソとではあるが漸く彼女の声が聞こえてきた。

「えっと…」
「うんうん」
「…その、しんどい時とか、すごい支えてくれて」
「うん」
「いつも優しくしてくれるし、大切にしてくれるし」
「うん」
「だから、えっと……もう勘弁してください…」

…うっわ、なんだこれ。なんだこれなんだこれ。真っ赤になって必死に言葉を紡ぐなまえの姿に、ぶわっと身体が熱くなった。きゅ、と手を握る力を強めてくるなまえが追い討ちをかける。やべえちょっと待ってなんだよこれ、こんなん今までなったことないんですけど。どんどん顔が熱くなって赤くなってることが嫌でもわかって、口元を手で覆って目線を逸らした。いやだってこれほんと、ヤバい、死ぬ。

「…オメーも照れてんじゃねえよ黄瀬」

あーもーなんで青峰っちもそういうこと言うかな!なまえと桃っちが俺を見て、俺らしくないこの反応になまえも余計恥ずかしがって。

「いや、ちょっと…かなり照れるもんなんスね、こういうの」
「もー、二人とも真っ赤だよー?」

わかってるから実況しないで、なんて思ったがこれ以上なにか言ってカウンターを食らうことは避けたいので黙っておいた。もー、まじで俺らしくねえ。冷やかされるなんて、よく考えたら人生で初めてかも。こんな照れくさいもんなんだ、と口元を押さえながら思った。二人とも大好きなんだね!なんてまた爆弾を投下する桃っちに更に頬が熱くなるが、なまえも同じように赤くなっててそれが本当に可愛くて。繋いだ手をぎゅっと握れば、控えめにではあるが握り返され心臓が跳ねた。なんか、冷やかされるのも悪くないかもなあ。

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -