「よお、ブス」

登校中、頭上からそう聞こえたと思ったら突然肩に腕がまわされた。日本人にしては随分黒いその手は間違いなく、彼のもので。

「おはよ青峰くん」

ものすごくナチュラルに肩を抱いてきたこの人はウチのエース青峰くん。朝の挨拶なのか際どい彼の言葉にとりあえずそう返すと、嬉しそうにニカッと笑われた。ブスとか言ってくるのはひどいと思うけど、この笑顔を見るとなんだか憎めない。

「おはよ、なまえっち」

今度は反対側から別の人の声が聞こえて、振り向くと同時にぶら下げていた手を握られた。呼称からもわかる通り声の主は黄瀬くんで、朝からの眩しいモデルスマイルに目が眩む。爽やかな笑顔にドキッとしつつおはようと返せば、青峰くんに負けず劣らずな素敵な笑顔を見せられて。

「つーか青峰っち、なまえっちから離れて」
「あー?オメーこそ離れろ黄瀬ェ」

私の頭ひとつぶん以上上で勃発する睨み合い。ああ、また始まった。肩を掴む青峰くんに引き寄せられ、かと思えば手を握る黄瀬くんに引き戻され。毎日毎日こんなことしてて飽きないのかな。少なくとも私は飽きる、というか困る。

「なまえっちは俺のっス!」
「寝言いってんなよ、こいつぁ俺んだ」

私抜きで繰り広げられるこんなやり取りにも慣れてきた。最初こそ恥ずかしかったし慌てたけれど、こうも毎日同じような言い合いを頭の上でされれば、さすがに順応もするというもので。好いてくれることはもちろん嬉しいが、もう少し落ち着いてはくれないだろうか。二人を適当に流しつつ学校までの道のりを歩くも、悪目立ちしてしょうがないからせめてもっと大人しくしてほしい。普通に三人で登校すりゃいいじゃん。と、先日提案したら二人に全否定されたんだけど。

「うっせえな、オメーは寄ってくる女の中から適当に選びゃいいだろが」

青峰くんが黄瀬くんの手を振り払って私を抱き寄せる。急に引っ張られ体勢を崩す私を支えた青峰くんに、不覚にもドキッとしてしまった。いやいや、青峰くんに引っ張られたせいで体勢崩したんだぞ目を覚ませ私。

「だーから、俺はなまえっちが好きなんスよ。他の子じゃダメなの、この子がいいの」

今度は黄瀬くんが青峰くんの手を振り払い、ぎゅっと私を抱き寄せた。後ろからの包み込むような包容にまた胸が高鳴るのを感じる。や、だから落ち着けこいつらのせいで朝からこんな目に遭ってるんだぞときめいてる場合か。

「あー…じゃあもうこいつに決めさせりゃいいだろ」
「いいっスよ、俺と登校したいよね、なまえっち」
「ふざけたこと言ってんな。俺に決まってんだろ」

うーわー…めんどくさいことになってしまった。二人して期待に満ちた目で私を見つめてきて、どう答えてもうるさくなる気しかしないこの状況に溜め息が漏れる。あーあ、どうしよう。困って視線を泳がせた後、どうするかを決めた私は二人を交互に見やった。黄瀬くんと青峰くんが、生唾を飲む。

「私、さつきちゃんと登校する」
「「…は?」」

呆ける二人の間をすり抜け、少し前を歩いていたさつきちゃんに駆け寄った。肩をちょんちょん、とつつくと綺麗な髪を靡かせ振り返ったさつきちゃんは、私を見るなり太陽のような笑顔を見せた。ああ、この可愛い女の子と一緒に登校するのが、私は一番安全だし一番幸せだ。

「また大ちゃんきーちゃんに取り合われてたの?ごめんね、気付いたら助けてあげられたんだけど…」
「ううん、全然!むしろ今すっごい助かってる!」
「ならよかった!じゃあ一緒に行こ?」
「うん!」

後ろでぎゃーぎゃー騒ぐ二人を置いてさつきちゃんと歩き出す。二人のことは大事だし大好きだけど、どっちかを切り捨てるくらいなら私はどっちも選ばない。こうしてみんなで仲良くしてるのが一番楽しいから。きっと明日も同じような争いが起こるのだろうけど、私は明日も同じことをしようと心に決めた。

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