「ちょおおおお!!何してんスか!!」
DVDの収納された棚に釘付けになっていた私の目を、寝室から戻ってきた黄瀬の手が覆う。…この異様な慌てぶりはやはり、疚しい気持ちがあるのだろうか。
黄瀬家に来てまったり寛いでいると、携帯がない、と突然黄瀬が言い出した。電源を切っているらしく電話をかけても意味がないため、二人で手分けして探すことにした。私はリビングを必死になって探し、DVDの入った棚に行き着いたわけだが。その一角に、なんというか、いかがわしいパッケージを発見してしまったのだ。しかも複数。驚いて目を見開いていると、寝室を探していた黄瀬が慌てて戻ってきた、というわけだ。
「…うん、わかったから手どけてくれる」
「…はいっス」
私の高いとも低いとも言えない声にびくつきつつ、黄瀬はゆっくりと手をどけた。クリアになった視界になるべく目の前のブツを入れないようにして、黄瀬に向き直る。彼のズボンのポケットから私とお揃いのストラップが覗いていたので、携帯は寝室にあったのだろう。うん、それはいいんだけどさ。
「えっと…見た、っスよね?」
「うん」
まあ見ちゃいましたよね。素直に答えると黄瀬はうっわ…と溢して頭をぼりぼり掻いた。なんかごめん。
「や、えっと…別にこういうの持っててもいいと思うし、見つけちゃったけどちゃんと隠して配慮してくれてるし、怒りゃしないけど」
「けど?」
「内容がマニアックすぎて引いた」
「は!?あんなん普通っスから!」
「あとセーラー服好きとかおっさんかよ…」
「うっせーよ!」
あんまちゃんと見てないけど、並んでたDVDの大半がセーラー服着てた気がする。あとは目隠しとか、あとコスプレもあった。自分の彼氏の性癖を知ってしまうというのは随分気まずいものなんだなあ。
「…つーかそもそもなまえがヤらせてくんねーからじゃないスか」
「は」
「いっつもAV女優となまえ重ねてヌいてんスよ?」
「は、おま、触んな!」
私の首筋から鎖骨を滑る黄瀬の手を叩く。な、にを言ってやがんだこいつは。つーか開き直んな!ギロリと睨むも完全にいつもの調子を取り戻した黄瀬には何の効果もなく、結局は私が追い込まれる形になる。
「前なら普通にヌけたのに、今じゃなまえ想像しないとだめなんスから」
「ふざけ、おま、言わなくていーから!」
叩き落とした手が再び私の顔にまで上ってきて、そっと頬を撫でる。手つきは優しいのに言ってることは最低だ。そんなカミングアウト誰も求めてない!慌てる私を他所にどんどん黄瀬は距離をつめてきて、あっという間に唇を奪われた。簡単に侵入してきた黄瀬の舌が、逃げても逃げても私の舌を捕らえ絡める。ざらざらした感覚に、ぶるりと身体が震えた。
「ふ、んっ…んんっ…はっ…ぁ」
「…えっろ」
唇が離れる一瞬で、吐息混じりでそんなこと呟くのは反則だ。また唇が合わさって舌が絡み合って、なんだか私までおかしな気分になってくる。黄瀬の舌の動きとか洩れる息とかが色気を放ちすぎてて、脳の奥がぴりりと痺れた。思考のほぼ停止した脳内で、黄瀬家のDVD置き場にはもう近寄らないようにしようと強く誓った。