「なまえ、卒アル届いたっスよ」
「え、まじ?」
高校を卒業して3ヶ月。涼太の家に遊びにきているとインターホンが鳴り、宅配便が来たことを知らせた。玄関に消えた涼太が戻ってきた時、その手に握られていたのは高校の卒業アルバム。いつだかこいつの卒アルを見た日のように並んでソファに座り、届いたばかりのアルバムを開く。
「わー…もう先生たち懐かしい」
「監督相変わらずメタボっスね…」
最初のページには校門から見える校舎や先生たちの姿。パラパラとめくって生徒のページに入り、あの子が懐かしいだとか、この子と仲良かったとか、そんなやりとりをしながらアルバムを見つめる。そのままページをめくっていると、私たちのクラスページに行き着いた。涼太の笑顔がものすごく決まっててなんかむかつく。けどそれに触れるのもむかつくからスルーして一枚めくればクラス風景のページに差し掛かり、真面目に授業を受けるみんなの姿や楽しげに笑う休み時間の一コマが写っていた。3ヶ月前まではここにいたのに、もうすごく前のことに感じる。
「ここでさ、放課後にキスとかしたっスよね」
「…うっさい」
顔なんて見ずにそう言ったけど、こいつが今ニヤニヤしてるであろうことはわかりきってる。当時のことを思い出すと恥ずかしくなってきて、赤くなった顔を隠すため耳にかけた髪を下ろした。
「なーに照れてんスか、何回もしたっしょ。キス以外もさ」
「まじで黙れバカ」
本っ当に最低。ぎろりと睨んで涼太の足に肘を力の限り振り落とすと、さすがにこたえたのか彼は患部を押さえ苦悶の表情を浮かべていた。ざまあ。
「ってー…。でもさ、体育祭とか文化祭とか修学旅行とか、行事の度にちょっと二人で抜け出してたっスよね」
「おまえが無理に連れ出したんだろーが」
「でもなんだかんだ着いてきたじゃん」
それは、確かにそうだけど。涼太に誘われ、文句を言いつつもいつも着いていってたのは私。そこをつかれると何も言えないから悔しい。
思えば私の高校生活は、すべてこいつに捧げたような気がする。一年の時から付き合って、三年間私の隣にはずっとこいつがいて。
「俺の高校生活の思い出、なまえとバスケしかねえっスわ」
「…私も」
ほんとに、私の高校生活イコール黄瀬涼太、みたいな三年間だった。振り返ればこいつとの思い出ばかりで他のことがあまり色濃く残っていないけれど、でもやっぱり好きな人とずっと一緒にいれたというのは幸せなことで。
「…ありがと、三年間」
「こちらこそ」
遊び人だった涼太が三年間、浮気もせず私と付き合ってくれていたなんてもはや奇跡だと思ってる。本人に言ったら怒りそうだから言わないけど。
「これからも、よろしくっス」
「…うん」
膝の上に置いていた手に涼太の指が絡まって。見上げると、すぐに彼の唇が降ってきた。ふに、と柔らかいその感触を、確かめるのは何度目だろう。付き合ってから数えきれないくらいキスされたし、したけれど、よくよく考えればそれだって本当に幸せなことなんだよね。離れていく薄い唇を名残惜しいと思いつつ、そっと目を開け目の前の涼太を見つめた。視線が絡み合って、どきんと胸が音を立てる。
「…好き、涼太」
「ん、俺も」
素直な気持ちを伝えれば、涼太は優しく笑って私の頭を撫でた。ああ、私、この人のこと本当に大好きだ。
込み上げる愛しさを隠すことなく彼に抱き付けば、くす、と笑って抱き締め返してくれる。涼太の恋人になれて本当によかったと思うと同時に、これからもずっとこの人の恋人でいたいと強く思った。