「ね、見てよなまえ」
「ん?」

大学の卒業を目前に控えた今、私は黄瀬家で引っ越しの荷造りをしていた。準備くらい自分でやれよとも思うが、今やモデルだけでなく俳優業もこなす彼の多忙さを考えると、さすがに手伝った方がいいかなとも思うわけで。ここ神奈川から都内へ移り住む彼のためキッチン周りを整理していると、リビングで荷物をまとめていた涼太から声がかかった。

「ほら、この写真」
「わ、懐かし」

涼太が見せてきた写真には、制服を着ていつかの海沿いの公園で笑い合う私たちの姿が写っていた。あの場所には付き合いはじめてからも何度か足を運んで、これは確か高校の卒業式のあとにクラスの打ち上げを抜けて行った時のものだ。たかだか数年前のことなのに、もうずっと昔のことに感じる。

「なんか、なまえ大人っぽくなったっスね」
「いやそもそももう大人だっつーの」
「そーじゃなくてさ、なんか、雰囲気とか。まあ昔から大人っぽかったけど」

まあ確かに幼くはなかったけど。それにしても、無愛想な私がこの写真では随分といい笑顔を見せている。涼太の手から写真を受け取り眺めると、あまりの懐かしさについ顔が綻んだ。高校卒業は寂しかったけど、でも涼太と過ごせて幸せだった。悪態ばかりついていたけど、でも本当は涼太のこと、大好きで。写真に写る涼太もまた優しい顔で笑っていて、なんだか胸が温かくなる。昔から綺麗な顔立ちをしていたけど、こうして比較してみるとやはり涼太も成長していて。当時よりも落ち着きも色気も増して、数段かっこよくなったなあと冷静に考えた。

「ここ、何度もデート行ったっスよね」
「そーだね」

初めてデートで行ってから、何度も足を運んだこの場所。当時もらったお揃いのストラップは、今もお互いの携帯にぶら下がっている。高1の時だからもう6年も前のものだけど、外す気には一度もならなかった。

「この写真ももう4年も前スか…なんか随分長いこと付き合ってるね、俺ら」

涼太の言葉と全く同じことを考えていたから驚いた。喧嘩だってしたしすれ違いがないわけではなかったけど、でもこの6年間、別れたいとは一度も思わなくて。そんな相手を見つけられた私は、恐らく幸せな人間なのだろう。

「よくこんなに続いたよね。あのチャラ男代表だったあんたが」
「昔の話っスよ…。それに、俺これからもずっとなまえと一緒にいるつもりなんで」

涼太の腕が私の肩にまわり、そっと抱き寄せられる。昔はこうされるだけで心臓が爆発しそうなくらい音を立てていたけど、今ではその心音も心地好いものに変わっていて。

「…なまえ、聞いて?」
「な、に」

涼太が少し身体を離して、私の目を覗き込む。琥珀色の澄んだ瞳は相変わらず美しくて、その瞳に私が映っていることが嬉しくて。涼太が微笑んで私の髪を撫でるから、とくん、とまた心地好い鼓動が私を包んだ。

「一緒に住も」
「…え」

予想外の言葉に、目を見開いた。一緒に、とはつまり、私と黄瀬が、同棲するってことで。だってそんな、今はテレビにも出てるような人なのに、一緒に住むなんて。

「…撮られたらどうすんの」
「大丈夫、事務所にも許可もらってるから」
「お母さんにも、言ってないし」
「このあと話しに行こ、俺も行くから」
「荷造りとか、」
「俺も手伝うっスよ」
「……私で、いいの」
「今更なに言ってんスか。なまえ以外ありえないっスよ」

涼太が目を細めて私を見るから、嬉しいのとか驚いたのとか全部がごっちゃになって、うっすら涙を浮かべながらこくこくと何度も頷いた。私の反応にくすりと笑みを洩らし、そして涼太は再び私を抱き寄せた。ぎゅうう、と強い力で抱き締められて、私もそれに応えるように背中に手を回す。

「すぐ涙目になるとこは変わんないっスね」
「…うっさいな」
「好きだよ、なまえ」

もう、このタイミングでそんなこと言ってくんな。私だって、あんたのこと大好きだ。6年間、ずっと変わらず。私の目尻から流れた涙が涼太のシャツに吸い込まれていって、汚しちゃうかな、なんて思ったけど、もう構わずに肩に顔を埋めた。だって泣かしたこいつが悪い。愛しくてたまらないこの人のことを、負けないくらいに強い力で抱き締めた。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -