私の好きな人は完璧である。いや、比喩とかじゃなくて、本当に。
勉強も出来て運動も出来て、部活では入部して間もなく副部長にまで上り詰め、三年生になった今では誰もが認める部長になっていて。周りをよく見てるし気配りも出来るし、生徒だけでなく先生からも信頼されている。隙がないと言ってしまうことも出来るけれど、そうなるまでにどれほど努力したんだろう、と考えたら、だんだん好意を抱くようになって。今もPGとしてゲームを組み立てているその姿に、自然と目を奪われる。
「あーもうっ、テツ君かっこい〜っ!」
私の隣で叫ぶマネ仲間のさつきちゃんも、私と同じように部員に好意を寄せていて。パスを繋いでチームに貢献する黒子くんに目をハートにさせていた。もちろん、私もさつきちゃんも仕事はしっかりやるけれど。迷惑かけるわけにもいかないし。
「おいさつきぃ、いちいちうるせーよ!」
「なによ青峰君のバカ!ちょっとはテツ君見習ってよね!」
「あぁ!?」
休憩に入った青峰くんがさつきちゃんを非難する。や、やっぱり騒いだら気が散っちゃうよね。私はさつきちゃんみたいに公言するほどの勇気はないから心配ないけれど、でも気を付けなくちゃ。一人こっそり決意していると、目の前を見慣れた赤が横切った。もう条件反射のように、どきりと心臓が高鳴る。
「青峰の言うことは正しいよ。口に出すなとは言わないが、もう少し抑えるように。選手の気が散ってしまうからね」
「う…ごめんなさい」
「けれど桃井の仕事ぶりにはいつも助かっているよ。ありがとう」
しょぼんとするさつきちゃんに優しくそう告げて、ふわりと微笑む赤司くん。さつきちゃんの言うように黒子くんも気遣いの出来る優しい人だと思うけれど、赤司くんも決して負けてないと思う。注意はするけど労うことも忘れないし、こうしてみんなのこと見てるし。赤司くんは本当に、どこをとっても欠点のない人だと思う。
「…みょうじも」
「うぇ!?」
さつきちゃんに向けていた視線を突然こちらに向けられ、驚いて変な声が出てしまった。恥ずかしくて口を押さえると、先程と同じように赤司くんは柔らかく微笑む。
「君から随分と視線を感じるんだが、気のせいかな」
「…!!」
ば、バレてる…!そうだよね、声に出してないとはいえ、さつきちゃんと同じくらい熱視線向けてたもんね、普通気付いちゃうよね…!しかも相手はあの赤司くん。普通の人よりずっと鋭い彼が、私の視線に気付かないわけないじゃん!ど、どうしよう、視線どころか下手すればこの気持ちも。自分の情けなさに泣きたくなってきて俯くと、私の頭にポンと何かが乗った。赤司くんの、手のひらだ。
「すまない。反応が可愛いからついからかいたくなってしまってな」
「…え」
「次も勝ってくるから、しっかり見ていてくれ」
くしゃ、と髪を撫でて、そして赤司くんは次の試合に向かった。一度にたくさんのことが起こりすぎて、ちょっと弱い私の頭では全くついていけない。今のはいったい、どういうこと?必死に考えてももはや脳は機能していなくて、もう、本能に身を任せるしか、ない。
「あ、赤司くん!!」
「?」
「が、がんばって、ね…!」
「…ああ」
珍しく声を張って赤司くんにそう伝えると、赤司くんはくす、と笑って、小さく返事をしてくれた。もう、頭が沸騰しそうだ。彼に言われた通り試合をじっと見つめるが、やはり私の視界には赤司くんしか入らなかった。