「なまえっちぃぃぃぃ!!体育着姿も似合ってるっスねブルマじゃないのが残念スけど!写メ撮っていいスか!」
「うっわ来んなひよこ頭しね」
「ツンデレななまえっちもかわいいっス!」
「誰がいつデレたんだよその愉快な脳みそはどうにかなんないのかよてかツンじゃねーよ普通に嫌がってんだよ!」

バスケ部エースでモデルもこなす完璧な男の子。世間では確かに、黄瀬涼太はそう捉えられてるかもしれない。だが海常生は知っている。こいつが、いかに残念な人間かを。

「またやってるよ黄瀬くん…」
「あれさえなければ完璧なのにね…」

私たちの方を見ながら呆れ顔で話す女の子たち。彼女らは黄瀬のファンらしいが、いくらファンでもこの姿はさすがにドン引くという。そりゃそうだ、というかむしろこんな姿を見せられても一応はファンでい続けるあの子たちの愛は普通に尊敬する。私だったら即冷める自信がある。

「なまえっちほんとかわいい今日の下着はピンクっスか?水色っスか?それとも俺の黄色っスか?」
「教えねーしそもそも黄色の下着持ってねーし」
「えっじゃあ今日練習終わったら買いに行こうよプレゼントするから!」
「くたばれ!」

ここまでくるともう完全にセクハラである。こんな男が世ではキセキの世代だとかイケメンモデルだとかで通ってるんだからほんと日本おかしい。いやおかしいのはこいつの頭なんだけどさ。
そもそも、なんでこんなに付き纏われるようになってしまったのか。私は顔も並運動も並成績も並と、とにかくどこをとっても取り柄のない凡人だ。それがどうして、こんな黙ってればくそイケメンなこの男に好かれるようになったのか。こないだ聞いたら一目惚れっス!とか笑顔で言ってたけどますますわからん…一目惚れされるような要素が私にはないのだ。体育の授業のバレーボールをしながら悶々と考える。まあ答えなんて私がいくら考えたところで出るわけないんだけどさ。ほんとに黄瀬は謎だらけだ。

「なまえ!ボールいったよ!」
「え」

友達の声に我に帰ると、ボールは目の前まで迫っていて。相手のネット際には女バレエースの女の子がいて、あの子が打ったスパイクとか取れるわけないじゃんとか冷静に考えちゃって。咄嗟に避けようとすると、足首にぐにっと明らかにやばそうな感覚が走って。ボールは間一髪で避けられたけど、代わりに私の身体は地面に倒れ込んでしまった。

「なまえっち!!」

そんな私の状態に、一番に声を上げたのは片面を使って男子の方でバレーをしていた黄瀬だった。なんで目の前のチームの子たちより離れたコートにいるお前の方が反応早いんだよと言いたかったけれど、どうやらそんなこと言ってる場合ではないみたいだ。足首めっちゃ痛いどうしようこれ。

「なまえっち!」

片面から光の速さで駆けてきた黄瀬は、心配そうに私を囲む女子たちの輪をくぐり抜けて私の目の前に腰を下ろした。私の足首に軽く触れる黄瀬に顔を顰めると、捻挫っスね、と黄瀬は呟いて私の手を引いた。瞬く間に黄瀬に背負われ、身体が浮遊感に包まれる。

「ちょ、やだ黄瀬おろして!」

普段とは比べ物にならないくらい高い視界。私は黄瀬に、所謂おんぶをされていて。

「おろしたら歩けないじゃないスか!お姫様だっことどっちがいい?」
「そ、それはもっとやだ!!」
「っしょ?身長差ありすぎて肩も貸せないからこれしかないんスよ!恥ずかしいかもだけど我慢してっス!」

黄瀬はそう言うと、周りの視線なんか無視で保健室に駆け出した。もうこいつなんなの恥ずかしいんですけど脳みそ足りてないんじゃないのバカじゃないの!黄瀬の背中に顔を埋めながら頭をぐるぐる回るのはこんな言葉たちで。けれど、本気で私を心配してくれてるその顔を見ると、そんな言葉は引っ込んだ。ものすごい早さで保健室に着き椅子に身体を下ろされる。何故か先生がいなかったので黄瀬が勝手に氷水やら湿布やらを用意しだした。その手際の良さはさすがスポーツマンである。ほんと、黙ってればかっこいいのに。

「…なんで私なの」
「へ?」

私の足首に触れる黄瀬に、心の声が漏れてしまった。本当、なんで私なんかのこと好きなんだこいつ。おつむはニワトリ並だし犬みたいな性格だけど普通にしてりゃイケメンだし、私にさえ入れ込んでなければ絶対美人な彼女の一人や二人すぐ出来るのに。

「なんで私なんか好きなわけ、理由がわからん」
「だから一目惚れってこないだ言ったじゃないスか」
「それも意味わかんないし、まあそれはいいにしても私みたいな取り柄のない人間好きで居続ける意味がわかんない」

普通、こんな愛嬌のない女より自分に寄ってきてくれる可愛い子に気持ちが傾くと思うんだけど。目を丸くして私を見上げる黄瀬は、そんな私の発言を純粋に疑問に思っているようだった。いやあんたの方がよっぽど疑問だわ。

「…そりゃ最初は一目惚れだったっスけど、今は性格とかも全部含めて大好きっス!俺にとったらなまえっちが一番スよ」

本当に犬のように人懐っこい笑顔を向ける黄瀬に、不覚にもきゅんとしてしまった。そりゃこんなイケメンにドストレートに告白されりゃいくら私でもドキッとする。鬱陶しい奴だけど、でもこんなに私なんかのこと好きでいてくれる人、普通いないよね。こんなんに胸キュンしてしまったことがちょっと悔しいけど、でもこんなのも悪くないかなって、ちょっと思った。

「ね、だから下着の色だけ教えてくんないスか」
「やっぱ死ね!」

やっぱだめだこいつ。

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