「お疲れー」
「お疲れなまえちゃん」
「お疲れ様です」

部活を終え部員のみなさんがぞろぞろと帰っていく中、マネージャーの私は後片付けをしていた。強豪校故に部員も多く、片付けだけでも相当骨が折れる。やっとの思いで済ませて制服に着替え体育館の出入り口に向かうと、そこには鍵を持ってドアにもたれかかる笠松先輩の姿があった。

「す、すみません!」
「いや、たいして待ってねえよ」

急いで体育館を出ると、けろっとした表情でそう言って施錠する笠松先輩。ああもう、先輩は疲れてるのに。その広い背中にもう一度心の中ですみませんと謝ると、それと同時に振り返った先輩が、視線を外しながらごにょごにょと口を開いた。

「…か、帰んぞ」
「え?」
「だから!一緒に、帰んぞ」
「!!」

予想外のその言葉に、思考が停止してしまう。まさか笠松先輩が誘ってくれるなんて…!
私と先輩は、付き合って1ヶ月ほどの駆け出しカップルだ。かっこよくて責任感が強くて、誰よりも男らしい先輩に恋して、頑張って告白したらまさかのオッケーをもらえた。それからは先輩のバスケの邪魔にだけはならないように、私から先輩に何かをお願いするようなことは極力避けた。だから、一緒に帰るのも本当に久しぶりのことだったのだ。

「……」
「……」

先輩と並んで帰路につくも、いったい何を話せばいいのかわからなくなる。だ、だって緊張しちゃって、話題なんてひとつも考えられない…!大好きな先輩の隣を歩いてるだけでも心臓爆発しそうなのに、何か話したりとか無理!頭が沸騰する!

「…あのよ、みょうじ」
「は、はい!」

突然の先輩の声に過剰な反応をしてしまう。やだ、声裏返った。恥ずかしすぎてまともに先輩を見れない。ばくばくうるさい心臓が、どんどん私を追い込む。

「その…悪ぃな、か、彼氏らしいことしてやれなくて」
「え…?」
「俺付き合ったこととかねぇから、どうしていいのか全然わかんねぇんだよ」

先輩の口からそんなことが聞けると思ってなくて驚いて見上げると、先輩は照れたように頭を掻いて、視線を泳がせていた。先輩がそう思っていたことにもびっくりだし、こんな情けない顔をさせているのが自分だということにも驚きだった。ボッと火がついたように顔が熱くなって、何も言えなくなってしまう。先輩と一緒にいられるだけで幸せなのに、こんなに考えてもらえてるなんて。緊張と嬉しさでもうどうしていいかわからなくて、再び顔を前に向ける。

「…ほんとはもっと構ってやりてぇと思ってるし、その、えっと……だあぁああ!!」
「!?」

突然大声を上げたかと思うと、先輩は少し乱暴に私の手を握った。ごつごつしていて私よりも一回り大きい手が、私を包む。いきなりのその行為に私の頭はショート寸前で、もう心臓も破裂しそうだ…!

「せ、せんぱ…」
「…嫌か?」
「そ、そんなわけないです!嬉しい、です…!」
「…そうか」

私の反応を見て、安心したように少しだけ笑った先輩。ぎこちなくも愛しいその姿にドキドキして、頬が朱に染まる。けれど、それは先輩も一緒だった。二人して真っ赤な顔で歩くその姿は端から見たら滑稽かもしれないけれど、私はとても幸せだった。大好きです、先輩。

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