「わ、これすごいね」
「っしょ?これ結構面白いんスよ」

卒アルに一通り目を通してからは、黄瀬に後ろから抱えられる形で映画を観ていた。どれがいい?なんてたくさんのDVDを出されて、恋愛モノなんか見たら確実に変なことしてきそうだから無難にアクションモノを選んだのだ。この男は何から何までセンスがいいらしく、どれも面白そうだったから迷っていたらオススメされたのが今観てる映画だ。黄瀬が薦めるだけあって本当に面白かったので夢中で画面に食いついて、早くもラストまできてしまった。外人さんの濃厚なキスシーンを見せつけられ、勝手に気まずくなってしまう。あー、変に意識すんな私。

「俺らもこういうキスしてみる?」
「っ、してみねーよ映画観ろ」

悪戯っ子のようにクスクス笑う黄瀬。ったくこいつまじでしね。私の反応に気を良くしてしまったらしい黄瀬は、楽しげに笑って私の名を呼ぶ。

「ね、菜緒」
「何」
「こっち向いてよ」
「絶対嫌」
「向けって」
「ちょっ!」

お腹あたりに廻っていた腕が私の顎を掴み、無理矢理黄瀬の方を向かされる。やめろ、と私が言うよりも早く口を塞がれ、途端に羞恥心が襲ってくる。いつもならこれで唇が離れて終わりだけど、今日の黄瀬は何かが違った。黄瀬の舌が、私の唇をぺろりと舐めたのだ。経験のない私でも何となくわかる。これは、開けろという合図。背筋がぶるりと震えて、全身の神経が唇へと集中する。緊張からか恐怖からか自分でもわからないけれど、なかなか開かない私に痺れを切らしたらしい黄瀬は自らの舌で私の唇をこじ開けた。

「ん、っ」

無理矢理割られた唇から黄瀬の熱い舌が侵入してくる。経験したことのない違和感にびくりと肩が跳ね上がり、それが恥ずかしくてスカートの裾をぎゅっと握り締めた。
逃げても逃げても、黄瀬の舌は私を捕らえる。唾液がくちゅくちゅと音を立てて混ざり合って、それがどんどん私を追い込んで。上顎をべろりと舐めたり、歯列をなぞったり、私の口内をこれでもかというほど荒らし回る。時折黄瀬から漏れる吐息がやけに色っぽくて、ぞく、とまた違和感が私を襲う。混ざり合った唾液が口の端から落ちるのを感じて、一層顔が熱くなった。呼吸の仕方なんてわからないし、部屋に響く水音やお互いの吐息で聴覚までおかしくなりそうだし、全てが限界に達して黄瀬の肩を押した。

「はっ、はあ、はあ、」
「…かわい」

やっと解放された口で必死に酸素を取り込む。そんな私を、自分で言うのも難だけど、愛おしそうに黄瀬は見つめて、私の口端から溢れた二人の唾液に舌を這わせた。ふざけんなとかいきなり何すんだとか、言ってやりたいことは色々ある。けれど息も整ってないし、何より恥ずかしすぎて黄瀬の顔が見られない。

「菜緒」
「…こっち見んな」
「はいはい、照れない照れない」
「うっさい!」
「そんなこと言ってると今度は手加減しねーっスよー?」
「っ!」

あれで手加減してたのかよクソ。さすがに立て続けに、しかも更に深いものをされてはいくら何でも腰が抜けてしまう。悔しい気持ちを抑えて恐る恐る黄瀬を見上げると、切れ長の目は細められ、唇はにんまりと弧を描いていた。あーもうなんでそんな余裕そうなんだよ。じっと見つめてくる黄瀬の視線に耐え切れず、癪ではあるが私から口を開く。

「…何」
「や?可愛いなと思って」
「うっさいおまえほんと黙れ」

この野郎どんだけ慣れてんだっつの。付き合って数日でこんなことするとか、ほんとに。何より悔しいのが、そんな黄瀬にどうしようもなくドキドキしているということだ。心臓が恐ろしいくらいばくばくいってて、それがこいつのせいだと思うと本当に負けた気がする。

DVDは、いつのまにやら最初のメニュー画面に戻っていた。結局最後観れなかったじゃんバカ。

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