「わ、白ブレザーだったんだ」
「そー、汚れ目立って大変だったっスよ」

先程の空気から一転、二人並んでソファに腰掛け、黄瀬の卒アルを眺めていた。個人写真もクラス写真もどこかスカした雰囲気を醸し出す黄瀬に思わず笑みが溢れる。

「…何スか」
「や、何でも」

そんな私の態度が気に入らなかったのか、黄瀬はむす、と顔をしかめて身体をソファの背もたれにどかっと預けた。ごめんごめんと平謝りをしてぺらぺらとページを捲る。クラスページが終わり部活ページに差し掛かると、そこにあったバスケ部の写真に思わず目を見開いた。

「何この人数」
「…ああ、多いっしょ。ウチのバスケ部3軍まであったから」

どんな中学だよ、とつっこまずにはいられない。

「これが3軍、2軍、1軍。でこっちがスタメン」

黄瀬の指差すまま順に視線を向ける。最後に指したスタメンに目をやると、見た目だけでもあまりに個性的すぎるその面子にまた笑いそうになってしまった。規格外のデカさもそうだけど、なんで全員こんなに頭がカラフルなんだ。黄瀬の隣の子に至っては人種も危ういレベルの黒さだし。そのまま視線をスライドさせていくと、少し距離を置いたところに女の子が数名写っていた。桃色の長い髪を高い位置で結う女の子が目に止まる。

「わ、この子可愛い」
「あー、桃っちスか」
「マネージャー?」
「うん」

ふんぞり返ってた体勢を戻して、私と同じように身を乗りだしテーブルの上の卒アルに目を向ける。先程の不機嫌な表情から打って変わって、優しい笑みを浮かべる黄瀬がそこにはいた。

「これが紫原っちって人で、常にお菓子食ってるんス。これは緑間っち、頭いいけど変わり者っスね。んでこれが部長の赤司っち。んで俺で、これが青峰っち。エースだった人で、めちゃくちゃ強いんスよ。んでさっき言った桃っちと幼馴染みなんス」

やけに饒舌な黄瀬をちらりと見てみると、とても懐かしそうに、そして慈しむように写真を見つめていた。普段みたいに意地悪な笑みじゃなくて、心からの、安らぎの笑顔。その横顔だけでわかる。黄瀬は、この人たちが大好きだったんだな。彼が認めた相手にのみ付けるその呼称が、どれだけチームメイトを敬愛していたかを伝える。海常の選手でいる時とはまた違った顔をした黄瀬を垣間見た。

「…ま、もう一人スゲー人がいたんスけどね」
「へえ」
「途中からだんだんバラバラになっちゃったけど、この人たちと笑ってバスケしてた時はすげえ楽しかったっス」

黄瀬の表情に、若干の哀愁が漂う。…なるほど、この人たちとすれ違い始めてから、入学したての頃の冷めた黄瀬が生まれたわけね。ぱたん、と静かにアルバムを閉じた黄瀬は、その手で裏表紙を寂しげに撫でる。こいつは、笑って中学を卒業したかったのかな。まあどんな顔して卒業したのか知らないけど。見たことのない、中学時代の黄瀬に想いを馳せる。中学の時のことは、私の知らない世界だ。だから何も言えないけど。目を伏せる黄瀬の肩に頭をそっと乗せて、小さく息を吐いた。

「黄瀬はさ、海常、来てよかった?」

彼らのことを、おそらくとても慕っていたであろう黄瀬。そんな人たちとバラバラに離れて、一人違う県に来て、海常に来てよかったと、思えているだろうか。寂しくなったりしていないだろうか。黄瀬は、黄瀬の肩に頭を乗せる私に、更に自らの頭を乗せた。

「…ん、よかった」

見えないけど、たぶん黄瀬は今、笑ってる。黄瀬が海常で信頼出来る人たちに出会えてよかったと思うし、私も黄瀬に出会えてよかったと思う。黄瀬のごつごつした肩はお世辞にも心地好いとはいえないけど、でも安心する。私が自分からこんなことするなんて我ながら珍しいと思うけど、たまにはいいかななんて思った。

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