「お母さん、髪型変じゃない?」
「変じゃないって何回も言ってるでしょ」

帯をぎゅっと締めながら、半ば呆れたようにお母さんは言った。夕方とはいえ夏真っ盛りの今はやっぱり暑くて、浴衣だなんて慣れないものを着ようとしていることをちょっと後悔したりして。

「ほら、終わったよ」
「…どう?」
「似合ってるから自信持ちなさい」

全身鏡に写る自分を見つめ、ほんとに似合ってるかどうかは置いといて、とりあえず落ち着くことにした。大丈夫大丈夫、たぶんあいつは褒めてくれる、はず。
今日は、近くのお祭りに二人で行くことになっているのだ。あいつは夕方まで部活だからそのまま来ることになってて、まあ、浴衣で行くとは言ってないから所謂サプライズ的なやつなんだけど(あいつが喜ぶかは別として)。

「あの背高いかっこいい子と行くの?」
「っえ、なんで知ってんの!」
「ちょくちょく玄関先で話したりしてるのここから見えたから」

そんな、まさか見られてたとは。というかどこまで見てたんだ!動揺のあまり口をパクパクさせるがお母さんはにっこり笑っていて、誤魔化しようもないのでもう口を噤んだ。いいや、どうせいつかはバレるんだから。

「ほら、行かなくていいの?」
「っ、行く!」
「今度連れてきなさいよ、挨拶したいから」
「…ん」

慣れない下駄を履いて、お母さんの言葉に短く返事をして家を出た。なんだか気恥ずかしくて、別に誰が見てるわけでもないのに口許を覆う。下駄ってやっぱ歩きにくいな、とか必死で別のことを考えながら、なるべく早足で待ち合わせ場所に向かった。


「…え」
「…なに、やっぱ変?」

既に待ち合わせ場所に来て携帯をいじっていた涼太に近寄れば、二度見されガン見され終いには目を見開かれた。そ、そんな見ることないでしょ。

「変なわけねーっしょめっちゃ可愛いんスけど」
「…それはどうも」

涼太の手が、私の首筋に触れた。ぞく、と背筋が震えて、ぎゅっと拳を握り締める。慈愛に満ちた表情で優しく微笑む涼太は、ゆっくりと背を丸め私の額にキスをした。

「っだから、ここ外だってば」
「可愛かったからつい」

似合ってるっスよ、と笑う涼太に、少なからず喜んでいる自分がいた。お母さんに何度も変じゃないか聞いたのだって、鏡でいろんな角度から見たのだって、全部こいつにそう言ってほしかったから。なんか女の子してんなあ、なんて考えて恥ずかしくなりつつ、涼太の手を握り祭囃子の聞こえる道を歩き出した。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -