「急にごめん。今平気?」
「大丈夫…だけど」

門の向こうで苦笑を浮かべる涼太に、答えながら恐る恐る歩み寄る。えっと…なんて口隠るその姿があまりにも彼らしくなくて驚いた。

「あの、さ…その、」
「ん」
「…ごめん」

目線を斜め下に向けて、ポケットに手を突っ込みながら涼太は謝罪の言葉を口にした。その顔はあまりにも罰が悪そうで、なんて言っていいのかわかんないんだろうな、と容易に想像がつく。

「…菜緒のこと、取られたらって思ったら、めちゃくちゃ焦って」

涼太の声は今まで聞いたこともないくらい不安げで、いつもの自信満々な姿からは想像もつかない。弱々しい声量に目を丸くしていると、横に逸らしていた視線をこちらに寄越した。

「…菜緒は悪くないのに、酷いこと言って嫌な思いさせてごめん」

真剣な瞳で見つめられて、涼太の本気が伝わってきた。腹を括ったらしく落ち着いた表情で話すその姿に、私もちゃんと言わなくちゃ、と口を開く。

「…男は誰とでもキスとか、そういうこと出来るって言われたの、すごいやだった」
「へ?」
「…なに」
「や、そこ?責め立てたこと怒ってると思ってたんスけど」
「…だってあんたもそういうこと出来るってことでしょ、てか経験談でしょ」
「…あー、っと…」
「そういうこと、言わないでよ」

門を開け、涼太と私を隔てるものがなくなる。俯きながら一歩踏み出して、涼太のジャージの裾を握った。

「…けど、不安にさせるようなことしてごめんなさい」

消え入るような声で呟いて、涼太の厚い胸板に頭を寄せた。喧嘩してた期間なんか1日だけなのに、もうこの体温を久々に感じる。おでこからじんわり伝わるこいつの温かさに、何故だかほっと安堵した。

「ごめん菜緒、もう絶対言わねえ。つーか菜緒以外の子とキスとか無理、受け付けない」
「は」
「そりゃ昔のこと突っ込まれたら何も言えないっスけど、今はもう違うから」

…ああ、そうか。涼太も私と同じだったんだ。自分以外の人と、って考えて不安になって、けど本人はお互い以外ありえなくて。もう、私は何を不安がってたんだか。
涼太の腕が背中に回され、ぎゅっと抱き締められる。涼太の心音が直接伝わってきて、その速さに驚いた。こいつの鼓動をこんなにも速めてるのが私なんだという事実が嬉しくて、その広い背中に腕を這わす。それを宥如と取ったのか、涼太は安心したようにほっと息を吐いて私を抱く腕を強めた。

「あー…久々、このかんじ」
「…すっごい心臓バクバクいってるけど」
「許してもらえるかもわかんなかったし、もらえたらもらえたで甘えてくるし。そりゃ鳴りもしますよ」

ああ、ほんとに仲直り出来たんだ。この鼓動もこの匂いもこの抱擁も、全てが久しく感じられて縋るように抱き締めた。好きな人に抱き締められるのって、緊張するけどやっぱり嬉しい。

「…他の男なら不安になんか全然なんねえのに、相手があいつってだけで自分でも引くくらい嫉妬した」
「…ん」
「取られたらマジでどうしようかと思った…」

はー、と深く溜め息をつくこいつ。やっぱり、同じとこに不安感じてたんだ。確かにこいつを好きになる前はあんだけ頼ってあんだけ泣いて、私のそんな姿を知ってたら不安にもなるかもしれない。けどそれはあくまで前までのことで、今私が好きなのは、間違いなくあんたなんだよ。…って、さっきのこいつと同じこと言ってる自分に気がついた。

「りょうた」
「なに、っ!」

襟元をぐっと掴んで、思いきり引っ張り寄せた。前にもこんなことした気がするけど、こうでもしなきゃ届かないんだから仕方ない。目の前にいるきょとん顔のアホ涼太に、唇を重ねた。

「……私はあんたしか見てないから、あんま不安がんないで」

薄いけれどふにふにと柔らかい唇をゆっくりと離し、恥ずかしさを押し殺してそう告げた。顔が、バカみたいに熱い。けどこういう大事なことは、ちゃんと言わなくちゃだと思うから。目を見て真剣に伝えれば、涼太にも紅潮は伝染してしまったらしい。徐々に赤く染まる涼太の頬と比例して、私も更に赤くなる。

「…うっわなんなのマジで、なんでそういうことすんの殺す気かよ」
「は」
「…ありがと。なんか不安なくなったわ」

おでこをこつんと合わされて、焦点が合わないくらい近くにきた涼太の顔。涼太もばっちり私を見ていて、この距離で見つめあうとか、なんかキスより恥ずかしいかも。わたわた慌て始める私にくすりと笑みを洩らすと、涼太は目を細めて口を開いた。

「そのまま返すよ。俺も菜緒しか見てない。菜緒が好き」
「…っ」

へら、と幸せそうに笑う涼太に、どんどん顔が熱くなる。こういう時ばっか、そんな風に笑うんだから。噎せ返るくらいの甘い言葉と雰囲気が照れくさくて、ばーか、と短く返した。

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