「お邪魔、します」
「ん、ドーゾ」

黄瀬宅のドアを潜るのもこれで三度目だ。相変わらずむかつくくらい広いし綺麗で、お邪魔するのに気後れしてしまう。脱いだ靴を揃えて立ち上がり、黄瀬に先導されるまま廊下を進む。

「結構久しぶりっスよね」
「そーだね」

前に来た時は元彼のことで号泣してたんだっけ。その節は本当にご迷惑をお掛けしました。

「ね、菜緒」
「何」
「今日、可愛いっスね」
「っ、るさいな」

何こいつまじで何なのこいつ。何でそういう台詞簡単に言えちゃうわけ。今日何着ようかすごい悩んだこととか、どうせこいつにはお見通しなんだ。この手慣れてる感が本当にむかつくけど、でも嬉しいと感じている自分もいるから嫌になる。とりあえずそっぽを向いて誤魔化すと、視界の端で黄瀬が口角を吊り上げたのが見えた。

「照れるとこも可愛いっス。けど、」
「え」
「一人暮らしの男の家に、ミニスカート履いてきちゃダメっしょ」

瞬く間に壁に追いやられ、私の太股を黄瀬の指が滑る。それだけで、私の頭は完全にパニックになった。内腿を撫でる黄瀬の厭らしい手つきにぞくりと背筋が震え、咄嗟に足を閉じようとするも黄瀬の足が割り込んできてそれも叶わない。だめだ、やばい。頭の中では警鐘がけたたましく鳴り響いていた。

「や、めっ」
「あれ、もう感じちゃった?触ってるだけなのに」
「ふっ、あ、やだっ」

触ってるだけなんてよく言ったもんだ。こんなねっとりした手つきが、触ってるだけなわけない。そもそも、このスカート言うほどミニじゃない、のに。ズボンを選ばなかった数時間前の自分を呪った。やばい、これは本気で、やられる。拒否の言葉を紡ごうにも、私の口からは今は変な声と吐息しか出ない。そんなの黄瀬を喜ばせるだけだ。力の入らない腕を精一杯動かして、黄瀬の腕を掴み必死で首を横に振った。

「…もー、しょうがないっスね」
「、黄瀬…?」

黄瀬は私の内腿から手を離し、差し込んでいた足も退けた。同時に耐えていた涙がぽろりと頬を伝い、それをそっと黄瀬に拭われる。ここで優しくすんなら最初からこんなことすんなバカ。

「ごめんごめん、もうしないから、落ち着いて」
「っ…、ば、か」

黄瀬が頭を撫でてきて、それだけで少し落ち着いてしまうのだから私も人のこと言えないくらいバカだ。黄瀬は私の目尻にキスを落として、出来るだけ菜緒のペースに合わせるから、と言ってくれた。こくこくと頷く私に黄瀬は笑って、泣き止むまでずっと頭を撫でてくれていた。

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