『きーちゃんと喧嘩したってほんと?』
「どこから情報仕入れてるの…」

一晩経って翌日の夕方頃、桃色の彼女からの着信を不思議に思いつつも出てみればこれだ。どうしてこう情報が早いんだ。
いつかの相席の一件以来、桃井さつきとはちょくちょく連絡をとる仲になっていた(涼太づたいに連絡先を聞いたらしい)。聞いた話では彼女は中学時代からマネージャー兼諜報部員として活躍していたらしく、どんな細かな情報でも確実にリサーチするという。正直怖いからバスケ以外に応用すんなと思う。

『きーちゃん自分のこと話さないからちょっと手間取っちゃった』
「それでも十分早いよ…」
『菜緒ちゃんの元彼のことが原因って聞いたんだけど…』

やっぱりきーちゃんが嫉妬したかんじかな?と問われ、あまりしっくりこなくて曖昧に濁した。そりゃ直接の原因はそうだけど、けど私が怒ってる理由はそこじゃない。

「嫉妬…なのかなあ」
『え?嫉妬じゃないの?』
「…偶然会って話してたら怒られた」
『嫉妬じゃない』

ただの嫉妬だったら、私もここまで怒ったりへこんだりしなかった。信用されていなかったことも、疑わしいことはないのに疑われたことも、何よりあいつの放った言葉が、私の胸に突き刺さっていた。

「…なんか、男は好きじゃなくてもキスとか、それ以上のことも出来る、みたいに言われて」
『うん』
「それって涼太も私以外の子にそういうこと出来るってことだし…それはまあ、嫌だし」
『…そうだね』

溜め込んでいた不満をぽつぽつと溢す。言われたこととか喧嘩の内容とかべらべら喋るのって味方作りみたいなかんじがして嫌だけど、でもこの子なら変に同調したり悪口に転換したりしないよね。

『でもさ、きーちゃん菜緒ちゃんに本気になってから女の子全部切ったじゃない?』
「…ん」
『女遊び一切やめたんだよ?こんなこと言うのあれだけど、中学からずっとそういうことしてたあのきーちゃんが』
「…」
『そうまでして手に入れた菜緒ちゃんが自分の知らないところで元彼と話してて、きーちゃん相当焦ったんだと思うの。もちろん菜緒ちゃんが悪いわけじゃないけど』

彼女の言葉から想像してみる。涼太が昔本気で好きだった人がいたとして、私の知らないところでその人と笑い合っていたら。私はどういう気持ちになるだろう。
そもそも私が今まで嫉妬らしい嫉妬をしたことがないのは、涼太が女の子たちに本気ではなかったからだ。もし心から惚れ込んでいた人が過去にいたとしたら、私は今までのように無関心でいられるだろうか。

『…きーちゃんのこと庇ってばっかりだけど、菜緒ちゃんは悪いことしてないよ。偶然会っただけなんだし!』
「うん…」
『ただ、きーちゃん側の気持ちも知っておいてほしかっただけ。きーちゃんね、菜緒ちゃんが思ってる以上に菜緒ちゃんのこと好きだから』

仲直り出来るといいね、と残して、彼女は電話を切った。仲直り、か。昨日の涼太の表情や言葉が頭を過る。怖かったし嫌な思いもしたけど、でも涼太も嫌な思いしたよね。いつも素直になれないけど、今回ばかりは素直に気持ちを伝えなくては。そう決心して携帯を握り締めると同時に、メールの受信を告げるバイブが鳴った。どきっとして画面を開けば、そこに表示された名前と文字に心臓が逸る。

『今出てこれる?』

涼太からの短いメッセージ。慌てて部屋を飛び出し階段を駆け下りる。玄関を開けた先には、罰が悪そうに表情を曇らす涼太が立っていた。

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