すぐにその場を連れ出され、ぎゅうぎゅうと痛いくらいに握られた腕をひたすら引っ張られる。りょうた、と声をかけてもこいつが反応することはなくて、会話のないまま着いた先は公園だった。奥の人気がないところに通され、優しくではあるがフェンスに押し付けられる。ここで力任せにやらないところにこいつの優しさを感じた。

「あんたさ、なにしてんの」
「なに、って…」

無表情を貫いてるけど、こいつが不機嫌なのは明らかだった。怒りを孕んだ声に、冷たい瞳。おまけにこんなでかい身体で威圧されれば、そりゃ怖いに決まってる。なんでこんな怒ってんの、こいつ。

「キスは。されたの」
「されてない」
「じゃあ何してたの」
「急に腕引っ張られて…でもあいつ私に変なことする気なんてなかったよ」
「気のあるないじゃねーの。あれ見て俺が嫌な気持ちにならないと思う?」
「…ごめん」
「それに、いつ気が変わってもおかしくねーっしょ」
「そんなこと」
「ない、と思うわけ?あんた男信用しすぎ」

がしゃ、とフェンスが音を立てる。涼太が腕をついて、更に私を威圧した。走り込みの最中だったのだろう、ジャージ姿の彼は汗をかいていて、ぽた、と地面にそれが垂れた。

「男はね、好きじゃなくてもキス出来るし、勃つし、抱けるんスよ」
「…っ」

冷たいその声に、どくんと心臓が嫌な音を立てた。こいつの過去を考えたら、それはとても説得力があって。でもそんなこと、私の前で言うことないじゃん。

「なんでそんなこと言うの。普通に話してただけじゃん」
「…随分楽しそうだったもんで」
「だからって怒ることないでしょ」
「別に怒ってねーっス」
「怒ってんじゃん」

ここまでくると私もだんだんイライラしてくる。偶然会って話してただけなのに、なんで攻め立てられらきゃなんないの。話してた内容だって、ほとんど涼太のことなのに。

「俺には部活に専念しろとか言っといて、自分はその間元彼と仲良くしてるのかよって思っただけっス」
「…なにそれ」

仲良く、とか、ほんとなにそれ。別に会う約束してたわけでもないし、密会してたわけでもないのに。もちろん浮気なんてする気ないし、あいつに気持ちが戻ったなんてこともない。なのに、そんなに怒るくらい、私は涼太に疑われてるんだ。そう思ったら悔しいのか悲しいのか、なんだかよくわからない気持ちになって。私を覗き込むように前屈みになっている涼太の身体に手をついて、思いきり押した。

「そんなに信用されてないなんて思わなかった。帰る」
「…あっそ」

涼太の目も見ずに吐き捨て、大きな足音を立ててその場を後にした。拳をぎゅっと握り締めて、真一文字に口を結んで、ぐちゃぐちゃといろんな感情がない交ぜとなった気持ちを胸に、涙を堪えて走った。

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