部活三昧な日々を送っているというのに、このバカはまだバスケがしたいらしい。部活のある日は遅くまで残って練習して、ない日は走り込みしたあとコートのある公園に来て日が暮れるまで練習して。バスケ優先なことは一向に構わないしむしろ蔑ろにしたら説教する勢いだし、会おうと思えばこうして公園に来れば会えるわけだから別にいいんだけど。でもこいつ、さすがに無理しすぎなんじゃないの。

「…ちょっと休んだら」
「んー…もうちょっと」
「それさっきも言った」
「そうだっけ」

はは、と苦笑いしながら放ったボールは、ストンとゴールに吸い込まれていった。落ちたボールを何度か突いてから小脇に抱え、涼太は私の方へやってくる。

「んじゃ、ちょっと休憩」
「ん」

フェンスに寄り掛かる私の方へ歩いてきた涼太に飲み物を差し出す。それを受け取り、涼太は私の隣にしゃがみ込んだ。シャツの色が変わるくらい汗だくのこいつにタオルを被せ、溜め息をつく。こいつまじでどんだけ練習する気なの。口先を少し尖らせて見下ろせば、また誤魔化すように苦笑を浮かべて。ふざけんなよおまえコラ。

「…足」
「え」
「治ってないでしょ」

涼太と同じようにしゃがみ込んでそう言えば、ばつが悪そうに目を逸らされて。くっそ、やっぱそうかこいつ。

「…バスケのことは口出し出来ないけどさ、無理して怪我悪化しても知らないからね」
「んー」
「聞けよ」
「あ、そういやピアスは調子どうスか?膿んでない?」
「膿んでないけど話逸らすな」
「痛い痛い痛い」

ぐぐ、と耳を引っ張ってやれば、それはさすがに痛かったのか平謝りをしてきて。まあこいつに何言っても無駄だというのはわかってるんだけど、やっぱりほっとくことも出来ないのだ。先程被せたタオルで汗を拭く涼太の横顔が、ちょっと切ない。

「…大丈夫、あんたは何も心配しないで」
「心配しなくて済むように安心させてください」

ジト目でそう言えば、涼太は私の頭を撫でながら頬にキスをした。そしてそのまま唇を滑らせ、私の唇へと触れる。柔らかな表情で目を細めてらっしゃるけどここは外です。ざけんな。

「だっからおまえ、こういうとこで変なことすんなっつの!」
「変なことじゃないっスよー。いちゃついてるだけじゃん」
「誰か見てたらどうすんだよ!」
「誰も見てねーって」
「すいません、見てますけど」
「「え」」

背後から突然聞こえた声に、私も涼太も慌てて振り返る。そこにいたのは水色の髪の男の子で、涼太は彼を見るなり切れ長の目を真ん丸にさせた。

「黒子っち!なんでいるんスか!」
「ちょうど近くで練習試合があって、その帰りです」
「急に出てくんのまじ心臓に悪いからやめて…!」
「さっきからいました、ていうか声もかけました」
「ウソ!?」

…会話から察するに、おそらく部活関連の知り合いだろう。こいつが愛称で呼んでいるところを見るとどうやらそれなりに気を許してる相手のようで。つーかさっきからいたってことは、その、今のキスも見られてたってことで。うっわもう恥ずかしいし申し訳ないし、本当すいません。
とりあえず会話を見守ろうと思って黙っていると、今度はまた別の人がコートに入ってきた。

「黒子テメェ勝手にいなくなんな!…って、黄瀬!?」
「火神っちも!」

水色の男の子と同じジャージに身を包む男の子が、涼太を見るなり顔を歪めた。涼太並にばかでかいこの人も、おそらくバスケをやってるんだろう。三人で話してる姿を一歩退いて見ていると、赤髪の男の子が私の存在に気付いたようで。

「おい黄瀬、そいつ誰だ」
「あー…えっと、」
「噂の彼女さんですよね」
「桃っちも言ってたけど噂って何!?有名なの!?」

なんだお前彼女いんのかよ、と私を見てくる赤髪の彼は、でかい分威圧感も半端じゃなくて。ちょっと焦って涼太のシャツの裾を掴めば、大きなその手で頭をポンポンされた。こんなんでちょっと安心する自分もどうかと思うけど。

「あー…まあ、噂の彼女さんっス」

あーもう、こうして紹介されるの初めてじゃないのに。いちいち照れる自分に呆れつつ小宮菜緒ですと名乗ると、男の子二人も名乗ってくれた。このアホと元中の黒子くんと、そのチームメイトの火神くんだそうだ。

「あの黄瀬君がかなり手こずったって聞きましたよ」
「だからなんで知ってんスか!どっから情報入ってんの!?」
「小宮さん、黄瀬君のことよろしくお願いします」
「あ、はい」

黒子くんに涼太のことをよろしくされ、反射的に返事しちゃったけど。実際こいつの面倒見るの、かなり大変なのかも。今の生活、というかバスケの仕方見てたら、尚更。まあどちらかといえば面倒見られてるんだけどね。

「…なーんか黄瀬マジでムカつくな」
「は!?」
「バスケできるわモデルだわ彼女いるわで…しかも普通に可愛いしよ」
「彼氏前にして口説くのやめてもらっていいスか」
「口説いてねーよ!」

わいわいやってる三人は、言い合いをしつつもなんだかんだ楽しそうだった。まあそのあと結局バスケが始まって、あいつの足のことを考えてはヒヤヒヤしたけれど。
…けどまあ、涼太が楽しそうだったからいいかな。

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