夕日が水面に反射して、きらきらと輝いているのを上から見ていた。

「景色いいっスね」
「うん」

ゆっくりと昇っていく観覧車で、二人で海を眺めて。密室だし、ちょっと緊張するのは当たり前で。涼太にちらりと視線を送れば、涼太は既にこちらを見ていた。ばっちり目が合ってしまって、ぴくりと肩が跳ねる。それを合図に涼太がこちらにやってきて、私にぴったりくっついた。思わず後ずさると、それに合わせて前進してきて。ついには壁際に追いやられ、顔の横に手をつかれる。なんだかこの状況は、

「前と同じっスね」

前に観覧車に乗った時も、こうして詰め寄られて。どうしていいかわからない私を余所に、こいつは額やら瞼やらにキスをしてきた。前と同じようにそっとキスを落とされて、そして最後に唇を舐められる。以前と同様こいつの胸に手をついて僅かながらに抵抗したけれど、やっぱりそれも無意味で。湿った唇に、どうしても意識が向いてしまう。

「…前はここまでしか出来なかったけど」
「や、りょ、うた」
「今は、いくらでもキス出来るんスね」

すぐさま唇を奪われて、すぐに離れて。何度も何度も重なる唇が、やけに熱い。だんだんとキスは深いものになっていって、あまりにも狭いゴンドラの中を、唾液の絡み合う音が響く。唇が少し離れる度にお互いの吐息が洩れて、それすら厭らしく感じた。


観覧車を降りた頃には、もう太陽は沈んでしまっていた。夜の海は真っ暗で、それはそれで雰囲気がある。あまり人気のないところまで歩いて、二人並んで海を見ていた。

「菜緒」
「なに」
「…あのさ、これ、受け取ってほしいんスけど」

涼太が鞄から小さな包みを出して、ああ、またあの時と同じだ、なんて。

「…私なんも用意してない」
「いいっスよ、俺が勝手にやっただけだし。はい」

少し気後れしながらも渋々受け取る。涼太の目を見れば微笑まれて、たぶん今開けてってことだろうなって思って、ゆっくりと包装を開く。中から出てきたのはピアッサーと、シルバーのリングピアスだった。涼太がいつもつけてるやつの、片割れのようだ。

「あのね、ピアスって意味があって」

左耳は守る人、右耳は守られる人って意味なんス。そう言って、涼太は自らの耳を見せた。こいつが開けてるのは左耳。つまり、守る人。涼太はくすりと笑って、私の右耳にそっと触れた。涼太は私に、右耳にピアスを開けてもらいたいらしい。

「今の時期は開けたらたぶん膿むから、すぐにはやんなくていいけど。ま、いずれ開けてほしいなって」

涼太が私の前髪を避けて、額にそっとキスをする。こんなのもらっちゃったら、しかもそんなこと言われたら、開けたくなるのは当たり前で。

「今、開けて」
「え?いや、だから膿むって」
「やだ、今がいい」
「でも消毒とか、」
「いいから、お願い」

必死に懇願すれば、涼太は小さく溜め息をついた。ちゃんと消毒するんスよ、と諦めたように言われ、手のひらのピアッサーを取られる。このへんでい?と針でつつかれて、びくりと肩を揺らしつつ小さく頷いた。よく考えたら針が貫通するってことだし、ちょっと怖い、かも。

「痛くないから大丈夫っスよ」
「…ほんと?」
「ホントホント。初セックスの方がよっぽど痛いっス」
「しね」
「まあ冗談はおいといて、ホントに痛くないからリラックスして。怖かったら掴んでていいから」

その言葉に甘え、涼太の服の裾をぎゅっと握る。いくよ、の言葉に目を固く瞑ると、ガシャン、と耳元で大きな音が聞こえた。

「はい、開いたっスよ」
「え、うそ」
「ホントだって。ね、痛くないっしょ」

あっけなさすぎて、開いた感覚が全くない。少しだけじんじんするけれど、痛みと呼ぶにはそれは淡すぎて。涼太の言う通り、全然痛くなかった。

「バイ菌入るからあんまり触んないこと。こまめに洗うこと。消毒しすぎると安定しないからやりすぎないこと」
「は、はい」

やっぱり結構前から開けてただけあってお詳しいことで。思わず堅くなると、なんで敬語、と涼太はふにゃりと笑った。意地悪な笑顔は何度も見るけれど、こういう無防備な笑顔は慣れてない。きゅんと胸が締め付けられて、好きな気持ちが溢れてくる。考えるよりも先に身体が動いて、気付いたら涼太に抱きついてしまっていた。

「菜緒ー?どした?」
「…なんでもない」

優しい声で、頭を撫でられて。あーもうかっこいいんだよくそ。
そのまま暫く抱き締めあって、手を繋いで帰って。涼太にとっても私にとっても初めてとなる記念日デートは、結局ずーっとくっついてるだけで終わった。それをこの上なく幸せに感じるのだから、私もなかなかに溺れてしまっている。じんわり広がる耳の淡い痛みが、なんだか擽ったかった。

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -