「ほい、んじゃ、行くっスよ」
「ん」

差し出されたその手を握り、マンションを出て歩き出す。ちなみに私は、今日のプランを一切知らされていない。

「まずさ、プリ撮りたいんスけど」
「え、やだ」
「なんで!」

だってそんなこっぱずかしいもの、なんで今更撮るの。こいつこの顔だし絶対私より綺麗だろ。いろいろ自信なくすし恥ずかしい。勘弁してください。なんて言ってもまあこのバカが聞くわけはなく、嫌だと告げても引き摺られるようにゲーセンに着いてしまった。プリ機がいくつも並んでいて、たくさんの女の子やカップルがいて。

「はい、どれで撮る?」
「撮るなんて言ってないだろ!」
「今更っしょ」

来ちゃったんだし、観念しなよ。にやりと笑い見下ろしてくる涼太に蹴りを入れてやった。来ちゃったじゃねえよ誰が連れてきたんだよ私は嫌だっつったろ!あーもう暴れたら腰だるいしほんと勘弁してよ。睨む私と笑う涼太、というもはやお馴染みの構図で無言の闘いを繰り広げていると、周りの人たちの視線が集中していることがわかった。やば、こいつ有名人なんだった。

「ほら、騒ぎになる前に入ろ」
「む…」

誘導されて入ったプリ機。いつの間に用意したのやら、涼太は私が逃げないようしっかり腕を掴みながらお金を入れた。プリ機から案内音声が流れて、腕は掴んだまま慣れた手つきで写りや目の大きさやらを選択する。女子高生かおまえは。

「背景適当に選ぶっスよー」
「さすが慣れてらっしゃる…」

もはや抵抗する気も失せてしまい、手早いその操作を感心しながら眺める。私より慣れてんじゃねーか、今まで何人の女の子と撮ってきたんだよこいつ。広い背中を見つめつつ考えていると、画面をタッチしながら涼太はこちらに目を向けずに言った。

「実際そこまで撮ってないっスよ」
「嘘こけ」
「ホント。だって好きでもない女の子と撮って形に残るの嫌っスもん。後々流出とかされても困るし」
「…」
「中学んとき部活の人たちとふざけて撮ったりしただけで、女の子と二人で撮るのは初めてっス」

言い終わると同時に背景を選び終わって、撮影モードに入る。…二人は初めて、か。それだけこいつに気を許されてるということだし、まあ悪い気はしない、けど。もういいや、普通に楽しんじゃおう。形に残るのが嫌というこいつが撮ろうと誘ってくれたんだから、私とのデートは形に残したいと思ってくれてるってことだもんね。
涼太が私の手を握って、頭を私の方に傾ける。あー、ドキドキするからやめろくそ。カシャ、と撮影音がして、撮れた画が画面に表示される。

「やっぱ傾けても頭ギリギリっスねー」
「でかいと大変だね」
「これ男と撮っても見切れないように作られた機種なのに」
「そんなんあんの」
「モデルの人がカップル用にプロデュースしたやつなんスよ」

随分とお詳しいことで。189センチの巨体はどう足掻いても直立では入りきらないらしく、なんか大変なんだなあなんて思っている間にすぐに画面が切り替わり次の撮影に入る。あわあわしている私とは対照的に、涼太は落ち着いた様子で私の肩を後ろから抱いた。

「ちょ!」
「ほら、三秒前っスよ。笑って笑って」
「っ」

もう、ここぞとばかりに調子乗りやがってこのクソ男。画面に写されたこいつはそりゃあもういい顔で笑ってて、しかも綺麗で。男でこれとかふざけんな。
やたらスキンシップの激しいプリを撮り続け、最後の一枚。3、とカウントダウンが始まったのに涼太は何もしてこなくて、最後は普通に撮るのかな、なんて様子を窺う。1、とカウントされると同時に、涼太の声が降ってきた。

「菜緒」
「なに、!」

涼太の唇が、私の唇に触れた。その瞬間、カシャっとカメラ音がプリ機内に響く。驚きすぎて硬直する私から唇を離すと、にやりと口角を上げて涼太は笑った。

「ちゅープリっスね」
「っ、ふざけんなバカ!!」

もうこいつとは絶対に撮らないと、強く誓った瞬間だった。

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