腰に倦怠感を覚えつつ目を開ける。カーテン越しの日射しが眩しくて、脳が覚醒してくるのも早かった。ああ、またこいつとしちゃったんだ。腰の気だるさと、中に何かが入ってるような違和感は相変わらずである。

「…寝てる…?」

私を胸に納めながら、すうすうと寝息を立てる涼太。寝ててもかっこいいとかどんだけ顔整ってんだよくそ。きめ細かくて羨ましくなる頬に、そっと手を伸ばす。無防備な寝顔に、昨夜とのギャップを感じて笑みが洩れた。
この男と付き合って、今日で1ヶ月になる。付き合う前からキスして、1ヶ月も経たないうちにこういうこともして。付き合うこと自体が初めてみたいなもんな私にとって、これはなかなかにハイペースではあるけれど、でもこいつとだから受け入れられた、というか。

「…すき」

そう、こいつのことがこんなにも好きだから、身を任せることが出来たんだ。こんなの、いっぱいいっぱいになってる時とか、してる最中とかしか言えないけど。眠る涼太に軽く口付けてゆっくりと離れれば、完全に寝てると思ってたこいつの目は開いていた。

「っ、だから、心臓に悪いっつの」
「え」

頬を赤らめて視線を外す涼太に、私の顔はみるみる熱が集中してきて。狸寝入りとか、ふざけんなよ、くっそ。

「ほんと、素直になられると俺もたねースわ」
「しねバカ」
「はいはい、もうほんと可愛い、好き」

額に唇を落とされてじっと見つめられて、耐えきれなくて視線を逸らす。昨日こいつにされたこととか自分のしたこととかがどんどん思い出されて、顔なんて見れたもんじゃない。だって昨日、気持ちい、とか、ねだるような言葉とか言った、し。恥ずかしすぎて、しぬ。

「なーに照れてんの」
「っさいな」
「恥ずかしがることないっスよ、めちゃくちゃ可愛かったし、えろかったし」
「うるさいっつってんの!」
「こっち向いて、菜緒」

今度は涼太が頬に手を添えて、優しい声色で言う。逸らしていた視線を戻せばいつになく優しい笑顔を浮かべた涼太がいて、どきんと胸が高鳴った。急にそんな顔するのは、反則だって。

「1ヶ月、スね」
「…ん」
「ちなみに俺、記念日とか迎えんの菜緒が初めてだから」
「…うそ」

あんだけ女の子だらけの生活送ってたくせに、1ヶ月としてもたなかったのか。経験豊富なこいつの「初めて」をひとつ貰えたことがなんだかすごく貴重なことに思えて、幸せな気持ちになって。なんか、処女くさい考え方ではあるけれど。

「なんか早かったね」
「そっスね」

付き合ってから、日が経つのがすごく早かった気がする。毎日ドキドキさせられっぱなしで、私もこいつのこと、同じようにドキドキさせられてたらいいんだけど。

「菜緒さ、付き合ってからめちゃくちゃデレてくれるようになったから、俺まじ何回か死ぬかと思ったっス」
「…あっそ」

…ドキドキ、してくれてたみたいだ。私だって、あんたがかっこよすぎて、好きすぎて、何度も死ぬかと思ったわ。バカップルみたいだから絶対言わないけど。涼太が愛しくて、触れたくて、首に腕を回す。縋るように抱きつけば、涼太もそれに応えて腰に手を回し抱き寄せてくれた。ほんとに、好き。抱きつく腕に力がこもる。

「…あのさ」
「なに」
「…不可抗力ってのはわかるけどさ、そんな胸押し当てられると…さすがに勃っちゃうかなーみたいな」
「っ!最低!」

すぐに腕を解いて離れようとするけれど、腰に回された腕が放してくれることはなくて。むしろ更に密着させられ、太股になにかが押し当てられる。それが何なのか、嫌でも想像がついた。

「やっ」
「ほら、ね」
「ほんと最低!性欲魔!」
「あのねえ、あんた俺がどんだけ我慢してると思ってんの」

涼太が呆れ顔で私を見つめる。我慢とか、これのどこが我慢してんだよくそ。ぎろりと睨み上げると、涼太は小さく溜め息をついて私の頬にキスをした。

「ぶっちゃけ一回じゃ足りねえし、もっといろんなことしたいけど、あんた慣れてないし身体にも負担かけさせたくねえから、いっつも我慢してんの」
「…知らな、い」
「男の性欲なめんなっつの」
「もうほんと黙って」

私は一度でくたくたになって寝ちゃうけど、どうやらこの男はそんなんでは満足しないらしい。最中も私に気を遣ってばかりだというのに、その後も気を遣われてたなんて。

「あー…ほら、シャワー浴びてきな」
「え」
「…この状況でこれ以上いたら、確実に手出すから」
「っ」

私の腰から手を退け、涼太は枕に顔を埋めた。そんなこと言われたら、私は一刻も早くお風呂場に向かうしかない。正直、また昨日みたいなことされたら実際体力キツいし。ベッドを抜け出して、全裸であることを少し気にかけつつ慌ててドアに手をかけたその時。

「ゆっくり休んでさ、午後は出掛けよ」
「え」
「デートしよ、って言ってんの」
「…ん」

枕に顔を埋めたまま、こちらを見ずに涼太は言った。デート、って響きがなんか擽ったくて、素っ気なく返事をして部屋を出る。そしてそのまま、ドアに背中を預けた。あ、冷たくて気持ちいい。

「…」

頬が緩んでるのは、この際許してほしい。

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