手を繋いで帰って、ご飯を作って食べて。私が食器を片付けている間に、部活で疲れてる涼太にはお風呂に入ってもらって、そして今は私が湯船に浸かっている。以前と同様お風呂場には涼太の匂いがふんわりと残っていて、なんだか無性にドキドキする。意識し始めたら止まらなくて、今入ってる湯船もさっきまであいつが入ってたんだとか考えちゃって、もう変態かよ私は。

「もー…」

なんでこんなドキドキしてんの。このお風呂入ったこと何回かあるけど、あいつは私の後に入った時こんな風にドキドキしたのかな。変に緊張しちゃってさっきから体育座りのまま動けない。目をぎゅっと瞑って意識を他に逸らそうと頑張っていると、脱衣所の扉が開く音がした。

「着替え、ここ置いとくから」
「う、ん」

なんかこいつの家に来るといつもこいつの服借りてる気がする。というか渦中の人物の突然の登場に心臓がやけにバクバクする。ちょっと声裏返っちゃったし、恥ずかしい。もう頼むから早く出てって。

「…どしたの」
「な、にが」
「なんでそんな緊張してんのって」

なんでいちいち見抜くんだよくそ。つーかそこは気付いてもスルーしろよ。なんて答えるべきかわからなくて黙秘を通していると、ああ、と涼太は納得したように言った。

「残り香にドキドキしちゃったみたいな?」
「っ!」

なにこいつなんで気付くの!一発で気持ちを当てられたことに動揺して肩が揺れ、ちゃぷんとお湯が音を立てた。私の反応が涼太の回答を正解だと告げて、涼太はくすりと笑う。

「菜緒でもそういうのあるんスね」
「…悪いの」
「いや?俺もそうだったし」
「え」

あいつもドキドキしたのかな、とは思ったけど、まさかこんな早くその答えが、しかも本人から聞けるとは。別にそんな知りたいわけじゃなかったけどさ。

「菜緒の後に入るといい匂いするし、いろいろ想像しちゃってしまいにはムラムラしてきて」
「は」
「そのまま抜いたりしてね。菜緒も同じように意識してくれちゃうとは思わなかったけど」
「っ変態!」

なにこいつ、私の知らないところでそんなことしてたの。しかもそんなことして平気で風呂上がり私に接しやがって、ちょっとは罪悪感とかないのかよ!さっさと出てけと怒ればはいはい、と涼太は素直に応じて、再び無音になったお風呂。さっきのあいつの言葉が頭をぐるぐる回って、急いで湯船から飛び出た。


「あれ、早かったっスね」
「…あんなこと聞かされてゆっくり浸かれるわけないだろ」

白々しく笑う涼太に目も向けずに吐き捨てる。ソファに腰掛けるバカを無視してドライヤーをコンセントに突き刺せば、涼太は此方にやってきた。

「乾かしたげる」
「結構です」
「いーじゃん、やらして」

お願い、なんて頼まれて、まあ実際髪乾かすのめんどくさいしな、なんて女とは思えないようなことを考えて了承する。まあ座ってるだけで髪乾くなら楽だしね。軽くタオルドライされて、ドライヤーのスイッチが入れられる。ブオオ、と温風が吹き付けられ、ちょっと暑い。

「やっぱ俺の服でかいね」
「まあね」

そりゃこいつの背丈考えたらブカブカに決まってる。以前にも着たことのある中学時代のこいつのジャージ。聞けば中1から既にでかかったそうで、今手元にある服の中でこれが一応最小らしい。

「ティーシャツとかもうワンピースじゃん。下履かなくてもいけそう」
「さすがに短いっつの変態」

私の髪に指を通しながらバカなことを言う涼太を一蹴する。確かにでかいけど私だって小さくはないんだから、下履かなきゃさすがに見えるわ。…そもそも、こいつの服着るのだって、こいつの匂いに包まれて変な気分になる。これじゃお風呂となんも変わんない。次からはちゃんとジャージ持ってこよ。
ちょっと眠くなってきたところでドライヤーのスイッチが切られ、温風に靡いていた髪がストンと落ち着く。なんかブローまでしてくれたみたいで、いつもよりずっと綺麗に纏まってる髪がちょっと恥ずかしい。元々あんまり持ってないけど男のこいつに女子力負けたとあっては女として恥ずかしいのは当然である。いつもより艶やかに見える毛先を見つめていると、涼太は優しい手つきで私の髪を左側に流す。何事かと振り返るよりも先に、涼太の舌が首筋に這わされた。

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