記念日前日の今日、私は学校の体育館でバスケ部の練習が終わるのを待っていた。今日はこのあと涼太の家に直行してお泊まりというコースなのだが、少し早く来すぎてしまった。もう日も暮れかけているというのにまだまだ暑くて、こんな中でスポーツしてるあいつはよく倒れないなと感心する。

「黄瀬くんかっこいー!!」
「小宮さん黄瀬くん見ないの?」
「あ、うん」

夏休みだというのに相も変わらず涼太のファンは部活の見学に来てて、すごいなあなんて他人事のように思う。さすがに学校があった時期ほどの人数はいないものの、それでも結構な数だった。

「見ないのもったいないよ!あんなにかっこいいのに」
「黄瀬くんもたぶん見てほしいって」
「や、あの、ほんとに大丈夫だよ」

前まではあいつ絡みで冷たい視線をもらうことはしょっちゅうだったのに、今ではこれだ。周りに受け入れてもらえるのは本当にありがたいけど、やっぱまだ慣れない。練習を覗くことを遠慮する私にだんだんギャラリーたちも勧めることをやめ、各々涼太を見るのに必死になっていた。ひんやり冷たい壁に寄り掛かり携帯をいじっていると、部活が終わったのか体育館内からボールを突く音が止む。部員が何人か水道に行くため体育館から出てきて、その中には涼太の姿もあった。すぐに私に気づいたようで、目を丸くして駆け寄ってくる。

「ちょ、来てたの?」
「ん」
「声かけてよ」
「来たのさっきだし」

つーか部活やってる最中に声かけるとかないでしょ。びしょびしょに濡れたシャツで汗を拭う涼太にタオルを差し出すと、涼太はそれを受け取ってすぐに顔を埋めた。菜緒の匂いがする、なんて変態じみた発言をしてくるこいつに蹴りを入れたりしていると、私なんかよりも数段力強い蹴りが涼太に飛んできた。

「オイコラ黄瀬ぇ!いつまで喋ってやがる!」
「すんません!」

先輩の蹴りをモロに食らった涼太は半泣きで頭を下げた。その姿は私といる時のそれとはえらい違いで、なんだか面白く感じてしまう。私の存在に気付いていなかったらしい先輩は、私を見るなり目を丸くして、そして顔を背けた。あれ、なにか失礼なことしちゃったかな。

「せーんぱい、これ彼女の菜緒っス」
「うるせえ、知ってるよ!」
「あ、こ、こんばんは」
「お、おう」

知られてるのか。涼太がいつもお世話になってます、と母親かのような挨拶をすると、いや、と短い返事が返ってきた。…たぶんこの人、女の子苦手なんだろうな。全く目合わせないし、なんかたどたどしいし。

「おーい笠松ー、ってあれ、黄瀬の」
「げ」

体育館からまた別の先輩が出てきて、その目が私に向けられる。笠松、というらしい先輩とは対照的に、私の目をしっかり、というか異常に見つめてくるその先輩に少し躊躇してしまった。涼太以外の男の人にここまで見つめられるのは初めてだし慣れてない。先輩の姿を見るなりゲ、と嫌そうな反応を見せた涼太は、困っている私をさりげなく背に回した。

「おい黄瀬!邪魔だどけ!」
「嫌っスよ!森山先輩絶対口説くっしょ!」
「女の子をデートに誘って何が悪い!」
「人のモンに手出そうとしないでほしいっス!」

ぎゃあぎゃあ言い合う二人に、うるせえ!と笠松先輩が制裁を下す。…なんか、涼太がほんとにいつもと違いすぎて新鮮。私といる時や女の子を相手にしている時はやたら大人びた顔や仕草を見せるけど、こうして部活の先輩たちといる時のこいつはまるで子供、というか犬みたいだ。やっぱり後輩気質なんだなあと改めて思う。こうして先輩に可愛がられている姿は微笑ましいものがあった。
結局、笠松先輩に用があったらしい森山先輩は二人で体育館内に戻っていってしまって、涼太と私は出入り口に残される。まあギャラリーがいるから二人きりではないんだけど。

「んじゃ、片付け終わったらすぐ来るから」
「ん」
「いい子で待ってるんスよー」
「はいはいわかったから行け」

伏し目がちに笑って私の頭を撫でると、涼太は体育館に戻っていった。…人前でこういうことするのやめろっつの。キラキラ光る金髪も、瞳も、汗でさえも眩しくて、かっこいいなあなんて、素直に思ってしまった。

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