「わ、席ないっスね」
「どうしよっか」

今日は涼太と都内まで遊びにきた。その、デートというやつ、だ。いろいろ買い物して、お互いに服見立てたりして、ちょっと疲れたねってなってマジバに入って。注文してみたはいいものの、店内はすっかり満席で。どうしたものかと立ち往生していた時だった。

「あれ、きーちゃん?」

声のする方を見ると、テーブル席に腰掛ける男女二人組がいた。桃色の髪の女の子と、青色の髪の男の子は、いつかのアルバムでも先日の試合でも見た顔だった。

「桃っち!青峰っちも!」
「やっぱりきーちゃんだ!あ、じゃあ隣の子、噂の彼女さん?」

噂の彼女、とは私のことだろうか。女の子は大きな桃色の瞳をキラキラ輝かせて私を見ていて、どう返していいかわからずとりあえず会釈をしておく。彼女の言葉に涼太はそうっスよと肯定で返すと、やっぱり!と更に目を輝かせて私の手を握った。

「桃井さつきです!会ってみたいなってずーっと思ってたんだ!」
「あ、えっと」
「オイうっせーぞさつき。そいつ困ってんだろブス」
「ブスとか言わないでよバカ!」

青色の彼の発言を皮切りに、店の真ん中で口論が勃発してしまった。困って涼太を見上げると、まあいつものことっスから、なんて苦笑を浮かべていた。暫く二人のやり取りを見ているとやっと落ち着いて、私たちの座る座席がないことに気付いてくれた桃井さんが相席を提案してくれた。

「ごめんね桃っち青峰っち、お邪魔しちゃって」
「あ、ありがとう」
「いいよ全然!彼女さんとお話してみたかったし!」

正面に座ってにこにこ私を見つめる桃井さつきちゃん。ここまで他人に興味を持たれることは初めてで戸惑っていると、隣に座る涼太が困ったように笑った。

「桃っち桃っち、菜緒びっくりしてるから」
「あ、ごめんね!ずっと話したいと思ってたからつい…」
「ったく、一人で突っ走りすぎなんだよ」

また始まりそうになる喧嘩を涼太が宥める。というか、つい先日負かされた相手だというのに平気なのかなってちょっと心配だったけど、どうやらそのへんは案外さっぱりしているようだ。まあ、三人がいいのなら私は全然構わないんだけど。

「あー菜緒、さっき言ってたけどこの子が桃っちで、こっちが青峰っちね。んで二人とも、彼女の菜緒です」
「は、初めまして」

彼女、という涼太の紹介に、今更ながら照れてしまった。少しどもりながら挨拶すると、可愛い!とテーブルを跨いでハグされた。どうやらこの子はスキンシップの激しいタイプらしい。

「きーちゃんがベタ惚れって聞いたよ。ほんと?」
「なんでそんなことまで知ってんスか…」
「なんだおまえ、こういうのが好みか」
「青峰君は黙ってて!ねえねえきーちゃん、菜緒ちゃんのどんなところ好きになったの?」

直球すぎるその質問に、何故か私が真っ赤になった。頬が熱くて恥ずかしくて誤魔化すように俯きストローを口に含む。菜緒ちゃん照れるの早いよ、なんて笑われて、余計に恥ずかしくなってしまった。

「んー?内緒」
「えー教えてよ!」
「俺と菜緒の秘密っスよー」

なにをキモいこと言ってんだこいつは。隣を睨めばすかさず笑顔で返されて、なんかもう責めるのもアホらしくてやめた。すると今度は菜緒ちゃんはー?なんて矛先が私に向いてしまって、突然のことに噎せてしまった。涼太に背中を擦られ落ち着くと、にんまりしながらさつきちゃんは私を見つめている。

「ラブラブだねえ。にやけちゃう」
「や、あの、」
「で、どこが好きなの?」
「それ俺も聞きたいっス」
「おまえ自分は答えなかったくせに!」
「二人の時にいくらでも言ってあげるっスよ」
「言わなくていいっつの!」
「いーから答えろよ」

三人分の視線が一気に集中する。え、これ、言わなきゃいけない雰囲気ですよね。待って待って恥ずかしいなにこれ。

「えっと…」
「うんうん」
「…その、しんどい時とか、すごい支えてくれて」
「うん」
「いつも優しくしてくれるし、大切にしてくれるし」
「うん」
「だから、えっと……もう勘弁してください…」

手で顔を覆って小さな声でそう言えば、菜緒ちゃん可愛すぎ!なんて言われてどんどん羞恥に襲われる。あーもう、顔上げらんない。

「…オメーも照れてんじゃねえよ黄瀬」

青峰くんの言葉に隣の涼太を見上げれば、涼太は手の甲で口を覆い、ほんのり頬を染めて視線を逸らしていた。え、ちょっと、なにその反応。

「いや、ちょっと…かなり照れるもんなんスね、こういうの」
「もー、二人とも真っ赤だよー?」

さつきちゃんに冷やかされ、更に頬が熱くなる。だってただでさえ恥ずかしいのに、こいつのこんな反応見ちゃったらもう恥ずかしい通り越して泣きそうだっつの。冷やかされ慣れてないこともあって、こういう時どうしたらいいのかわからない。

「でもよかった、二人ともすっごい大好きなんだね!」

この子はほんとに、なんでもかんでもド直球だ。その言葉に更に顔を赤らめる私とは対照的に、もう順応してしまったらしい涼太はまあそうっスね、なんて答えやがるからどんどん追い詰められる。けれどどこか嬉しいような気持ちもあって、冷やかされるってこんなかんじなんだなって思った。
真正面に座る二人は、きっとテーブルの下で私たちの手が繋がれていることには気付いていないのだろう。絡められる指先からドキドキが伝わってしまいませんようにと、切に願った。

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -