「やっとくっついたんだって?おめでとー」
「むしろまだ付き合ってなかったの?」
「黄瀬くんもやっと報われたねー」

朝、教室に入るなりこれだ。まじでやめてくれ。
私小宮菜緒は、昨日正式に黄瀬涼太の彼女になった。彼女って響き自体がもう恥ずかしいのに、こんなみんなから黄瀬とのことについて触れられたら、なんというか、どうすればいいのかわからなくなる。とりあえず曖昧に笑って席に着くと、既に疲れたのか少し大きめな溜め息が洩れた。
正直、あの黄瀬と付き合うことになったんだからもっと風当たり強いかと思ってた。けれど「あれだけ必死な黄瀬くん見てたら応援せざるを得ないでしょ」という派閥がいつの間にやら出来たそうで。むしろ祝福ムード全開なこの雰囲気も、それはそれで困る。

「すごいね、一日でこんなに広まって」
「もう勘弁して…」

すっかり有名人だねー、なんてにこにこ笑顔で言ってくる友達に、もはや返事すらすることなく机に突っ伏した。ほんとに、勘弁してくれ。どういう経緯であれ人様の前で黄瀬に好きだと言ってしまった事実は消えないし、これまた人様の前で抱き締められたことも今更どうにも出来ない。この中にあの現場にいた人何人いんだろ。まじで忘れてくんないかな。

「菜緒いるっスか?」
「あ、噂をすれば旦那来たよ」

なんでおまえはこのタイミングで来んだよクソ。旦那なんて言う友達の言葉をスルーして視線だけを黄瀬に向けると、いつもの含み笑いではなくニコニコと子犬のような笑みを浮かべていた。あんな演技に騙される女の子たちは何なんだろう、なんて思いながら重い腰を上げ黄瀬に足を向ける。そのまま教室を連れ出され、着いた先はいつもの踊り場だった。

「めっちゃ広まってんだけど」
「そりゃそうっしょ。あんだけ目立つ告白したし」
「うっさい」

私の反応が愉快だったのかくすりと笑みを浮かべた黄瀬は、私の横髪を一房手に取り、そして耳にかけた。そのまま毛先を指で弄りつつ、視線を落として口を開く。

「ま、その方が色々いーじゃないスか。牽制も出来るし」
「誰相手に牽制すんだよ」
「ったくもー。あんたモテなくはないっしょ」
「…あんたに言われたくないよ」

毎日毎日呼び出されてる天下のモデル様が何言ってんだか。呆れて小さく溜め息を吐くと、急に真剣な目つきになった黄瀬が弄っていた髪を放し、私の耳元にぐっと顔を寄せる。突然の行動に肩がびくついた。

「昼、迎えに行くから、ちゃんと待ってるんスよ」

言い終わると同時に耳朶を甘噛みされ、背筋に変な感覚が走った。あーもうふざけんなこの野郎。こんなことしてくるこの男にも、これだけのことで膝がガクガクしてる自分にも、同じくらい腹が立った。私の状態を察した黄瀬が腰に手を回してきて、それがなかったらきっと腰が抜けてたことには、気付かないフリをしておこうと思う。

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