※ピロートーク的なお話
「…ん」
「おはよ」
「っ!」
蒸し暑くて目が覚めると、目の前には涼太の胸板があった。頭の上から降ってきた声に先程までの出来事を思い出し、ぼんやりとしていた頭が一気に目覚める。
「可愛かったよ」
「、るさい黙れバカ」
私の髪に指を通す涼太に悪態をつくが、恥ずかしすぎて顔が見られない。いたって普通な調子のこいつが、やはりこういうことに慣れているというのを物語っていて。可愛かったとか、どうせ今までの子たち全員に言ってきたんだろ。
「照れてる」
「照れてねーよヤリチン」
「あんたどんだけ口悪いんスか…」
呆れたように言いながらも、私の前髪を避けて額にキスをしてくる。当然私も彼も裸で、恥ずかしくて胸を両手で押さえた。どこ見ていいのか、わかんない。
「気持ちよかった?」
「うるさい」
「ってことはよかったんスね、安心したわ」
「は」
「や、俺処女初めてだからさ」
「…あっそ」
そんなん聞いてませんけど。あんたの性事情なんかどーでもいいわ。…正直、認めたくはないものの気持ちよかったのは事実だけど、でもこいつからしたら全然そんなことなかったんだろうな。処女の私を気遣ってばっかで、きっとこいつが今までの性行為で得てきたような快感は微塵も感じられなかっただろう。そう思うとなんか、申し訳ないというか、引け目を感じるというか。
「…言っとくけど、俺も気持ちよかったっスよ」
「嘘こけ」
「ホント。好きな子とセックスすんのってこんな気持ちいいんだなーって、菜緒の寝顔見ながら思ってた」
「…黙れバカ」
至って真剣にそう告げてくる涼太に、こちらが照れてしまう。なんでんなこと平気で言えんだよクソ。恥ずかしすぎて涼太を見られなくて、背を向けようと身を捩った瞬間、腰に鈍痛が走った。突然の痛みに顔を顰めると、そんなところも見逃さない涼太は私の腰に手を添えてきた。
「あー、やっぱ痛い?」
「…ん」
「優しくするつもりでいたんスけど、最後とかめっちゃ腰打ち付けちゃったしね、ごめん」
「…べつに」
あー、ほんと、調子狂う。こんな優しくされるとどうしていいかわからない。ゆっくりと腰を撫でる涼太の手つきに、先程までの行為を思い出してお腹の下の方がきゅんとする。もー、悔しいけどめっちゃかっこいいし、引き締まった身体とか見せられてドキドキしないわけないじゃん。もーやだ。
「…なに赤くなってんの。感じちゃった?」
「ちげーよバカ!」
にやにやしてんなよクソ!涼太の胸板にパンチをくれてやるが、しっかり筋肉のついたそこに触れてドキドキしてしまって。アホかよ私、なに勝手にカウンター食らってんの。
「もー、そういう可愛いことすんなって。勃ったらどうしてくれんの」
「っ、最低ばかしね!」
もうほんとやだこいつ。勃つとか知らねーよ勝手に抜けよくそ。身体を動かせない分思いっきり顔を逸らすと、へら、と涼太は笑って私の頭を撫でた。
「大丈夫っスよ、勃っても襲ったりしねーから」
「当たり前だっつの変態」
「ま、腰の痛みが引いたらわかんねーけど?」
「っ、うっさいもう口開くな!」
にやにや笑う涼太に再びパンチを食らわせて、涼太はそれを笑顔で受け流す。彼はそのままベッドから出て下を履くと、クローゼットからタオルケットを出して私の身体に巻いた。そのまま軽々と姫抱きにされ、お風呂場まで連れていかれる。
「シャワー浴びちゃいな。服とか下着はたぶんもう乾いてるっスよ」
どうやら涼太は私が眠っている間に下着やらなんやらを洗っておいてくれたらしい。私を手すりに掴まらせると、動くのキツかったら呼んで、と残してお風呂場を出ていった。…至れり尽くせり、とはこのことを言うのだろう。もー…ほんと、むかつく。