※後半際どい表現あり
「ん…」
「あ」
夏は朝でさえも日差しがキツい。強い光に目を覚ますと、横から私のものではない声が聞こえた。視線だけ向けると涼太が頬杖をついていて、私と視線が重なった途端目を逸らされてしまう。
「りょーた…?」
「…昨日はお見苦しいところをお見せしました」
それはもう恥ずかしそうにそう溢す涼太は、相変わらず視線を合わせてはくれない。そんな姿が可愛らしくてふふ、と笑みを溢す。
「…なーに笑ってんスか」
「べつに?りょーた可愛いなあと」
「…あんた寝起きは割と表情緩いよね」
その笑顔は無防備すぎ、と言って涼太は私に唇を重ねた。起きたばかりでふわふわしていた思考が一気に覚醒し、慌てて涼太の胸を押す。素直に離れた唇は弧を描いていて、昨日までの弱ったお前はどこ行ったんだと言いたくなった。
「昨日ありがと」
頬杖をついたまま、空いてる方の手で私の身体を抱き寄せる涼太。その腕の中はやっぱり安心出来て、久々のこの感覚に浸るように目を閉じた。恥ずかしいから言わないけど、こうして抱き締めてもらってる時が一番好きだ。
「…ごめん、夏休み入ってからずっと放置しちゃったっスね」
「……寂しかった」
「え」
涼太のシャツをぐっと掴んで、広いその胸に顔を埋める。驚いた表情の涼太が見えた気がしたけど、もうそんなん構ってらんない。今なら後で突っ込まれても寝起きであんまり覚えてない、で通りそうだし。今しか、言えない。
「会いたかったし、声聞きたかったし、触れたかった」
「菜緒…」
「邪魔したくないから我慢したけど、ほんとに寂しかった」
「…ごめん、菜緒」
涼太は私を抱き締める力を強めて、本当に申し訳なさそうに謝罪してきた。別に、仕方ないことも涼太は悪くないこともわかってるからいいんだけど、でもやっぱり寂しかったのも本音だった。
「いーよ別に。頼ってくれて嬉しかったし」
「…」
「いっつも私が頼ってばっかだから、支えてあげられたかなって」
「…うん、ありがとう」
背中に回っていた涼太の手が顎に添えられる。くいっと上を向かされて、そのまま唇を落とされた。ドキドキで死にそうだけど、でも久しぶりの涼太の唇の感触に、少し嬉しくなってしまう。すぐに離れた唇を、名残惜しく思ってしまう私はもう完全にこの男に溺れている。涼太はそんな私の唇を親指でなぞって、にやりと口角を上げた。
「物欲しそうな顔、してる」
言い当てられたことが悔しいけれど、でも涼太の言うことは事実で。たぶん今私は、すごくだらしない顔をしているに違いない。握りっぱなしだった涼太のシャツは恐らく皺になってるだろうけど、それでも構わず握り直した。もう、いっそ言ってしまえ。
「…もっと、して」
「え」
「…二回も言わせんな聞こえてんでしょ!」
恥ずかしいんだから聞き返さないでよ。柄にもなく目を真ん丸にしてる涼太を涙目で睨むと、今度は優しい笑顔に表情を変え、私の唇に吸い付いた。触れては離れて、また触れて。その度に涼太がふにゃって笑うから、私まで顔が綻んで。ドキドキしながらも優しい気持ちでキスを交わしていると、合わさった唇から急に涼太の熱い舌が入り込んできた。驚いて目を見開くと、薄目を開けて私の表情を観察する涼太と目が合う。こいつ、楽しんでやがる。くちゅくちゅとお互いの唾液が混ざり合う音を聞きながら、舌を絡ませて。もう、恥ずかしくて死ぬ。
「りょ、うた」
「ん?」
「やっ…ん、やめっ、あ、」
拒否の言葉を途切れ途切れに紡ぐと、涼太は名残惜しそうに唇を離して。二人の舌を繋ぐ唾液が、なんとも厭らしい。
涼太は今度は私の頬に口づけて、そのまま唇を降下させていった。首筋に涼太の頭が到達して、ふわふわした髪の毛が擽ったくて身を捩る。そんな私に構うことなく、涼太は私の首筋に舌を這わせた。ざらざらしたその感触に、ぶるりと背筋が震える。
「ちょ、っと、涼太っ」
胸を押しても肩を上げても全然効果はなくて、むしろ悪化さえしていて。私の皮膚を少し口に含んだ涼太は、それを強く吸い上げた。突然のことに驚いて、ひゃ、と変な声が出る。
「…菜緒白いから、やっぱ映えるっスね」
「っ、ざけんな、バカっ」
映える、とは、恐らくキスマークのことだろう。そんなものつけられたことないし、こんなとこにつけられたら髪縛れないし、お母さんとかにバレたらやだし、どうしようと焦りばかり生まれる。涼太の唾液が付いたところがひんやりして、どんどん恥ずかしくなってきて。
「ほんとはこういうの、つけるのもつけられるのも嫌いだったんスけど」
「じゃあつけんなっ」
「…なんでっスかね、菜緒には、つけたいって思うんスよ」
くす、と笑いながら涼太は言って、どんどん舌を下降させる。鎖骨をべろりと一舐めして、その少し下をまた吸い上げた。
「やっ、あっ」
「…菜緒」
急に真剣な声を出した涼太に視線を向けると、突如視界が天井と涼太でいっぱいになる。涼太が切羽詰まった顔で私を見下ろしていた。
「ごめん、もう無理」
「は」
「我慢できねー。菜緒のこと、抱きたい」
「…え」
涼太が私の両手を、ベッドに縫い付けるように握った。脳みそが、全く動いてくれない。抱きたいって、抱き締めるとかそういう可愛らしいもんじゃなくて、所謂性行為、のことで。涼太の真剣な表情が、それが冗談ではないことを告げている。ドクンドクンと忙しない心臓が、嫌に耳に響いた。
「こ、わい」
「優しくする」
「したこと、ないし」
「ゆっくりやるから」
「恥ずかしい、よ」
「俺も恥ずかしいよ」
ベッドに縫い付けられた片手を解かれ、そのまま涼太の胸に当てられる。ドクドクと速い鼓動は、私のそれと負けず劣らずで。
「…ね?」
こくり、と頷くと、涼太は優しく笑って私を見下ろした。このバカみたいなチャラ男にこんなこと言わせて、こんな鼓動を速めさせてるのが自分だなんて信じられない。涼太の顔が目と鼻の先まで降りてきて、愛でるように私を見つめた。一度目を伏せて、深呼吸して、もう一度その琥珀色の瞳を見つめる。覚悟を決めて薄い唇にそっと口づければ、それを合図に涼太の手がシャツ越しに胸に触れた。