会場を出て、電車に乗って、並んで座って。その間ずっと、手は繋いだまま。時折涼太がぎゅっと握り直してくるから、私もそれに応えて。最寄りに着いて電車を降りて、改札を出たところで涼太の足が止まる。

「…今日、ありがと」
「ん」
「…見ててくれて、嬉しかった」
「…ん」
「菜緒が見ててくれると思ったら、なんか勇気出た」
「うん」

涼太の顔にはもう、貼り付けたような笑みはなかった。私がいることで少しでも涼太の支えになったなら、私もこれほど嬉しいことはない。

「…ちょっと、ごめん」
「え」

急に謝られたかと思うと、涼太は繋いだ手を引いて、自らの胸にすっぽりと私を収めてしまった。ぎゅう、と強く抱き締められて、顔がどんどん火照ってくる。

「おま、ここ駅…!」
「うん、わかってる、ごめん」

キツく抱き締めて、顔が見えないように隠してくれてるのはこいつの優しさだろうか。謝りながらも決して離してはくれないこいつの腕が、こいつがいかに弱っているかを告げていて。今日くらいはいいか、とその包容を受け入れる。

暫く抱き締められていると、漸く涼太が身体を離した。やっと満足したのかと思いきやその表情は未だに晴れていなくて、はあ、と小さく溜め息をついた。ちょっと来てと涼太を引っ張って自転車置き場に向かい、来る時に乗ってきたチャリに跨がる。これちょっとボロいけど、まあ大丈夫だよね。

「涼太、後ろ乗って」
「え」
「家まで送ったげる」
「や、いっスよそんなん」
「足、痛いんでしょ」

図星だったようで、涼太は急に押し黙ってしまった。いーから乗ってと手を引くと観念したのか荷物を籠に乗せ荷台に跨がる。俺重いっスよなんて溢してきたけどそんなん無視してペダルを漕いだ。ばーか私力強い方だっつってんじゃんこんくらい余裕だわ。
黄瀬家に向かって進んでいると、涼太が私の背中に額を預けてきた。控えめに重さを掛けてくる涼太を、私は黙って受け入れる。涼太も口を開くことはなくて、無言で自転車を漕いだ。

「はい、着いたよ」
「…ありがと」

自転車を止めてそう告げれば、背中に掛かっていた少しの体重がゆっくりと離れていった。涼太が荷台から降りて、前籠に突っ込んでいた荷物を肩に掛ける。涼太は相変わらず俯いていて、その表情を窺うことは出来ない。

「…お風呂入ってすぐ寝な」
「ん…」
「今日はちゃんと休んで疲れ取ること。あと足はほんと気を付けて」
「ん」
「…じゃーね」

あまりにも覇気のない涼太を心配に思うも家に帰ろうと自転車を方向転換すれば、突然涼太に腕を掴まれた。いつもに比べたら随分と弱々しいけれど、でも私の腕を掴むその力はしっかりとしていて。振り返ってみても涼太は下を向いていて、その表情は窺えない。

「涼太?」
「…泊まってって」
「え」

あまりに予想の範疇を超えたその発言に、思わず身体が固まった。泊まるってあんた、そんないきなり言われても。

「お願いだから」

涼太は相変わらず顔を上げなくて、でもその声色から、こいつが今どんな表情をしているかなんて容易に想像がついた。帰る場所になってあげたいと考えてたけど、たぶん今がその時だ。涼太の手に自らの手を重ね、彼の言葉に頷いた。

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