今日はついに試合当日。会場に着き適当に座ると周りはいろんな学校のバスケ部員で溢れかえっていて、正直場違い感は否めない。

結局涼太から連絡がくることは一度もなかった。本当に忙しくて連絡出来なかったとかなら構わないけど、たぶんそうじゃない気がする。何度私から連絡してしまいそうになったか。ちゃんと吐き出してほしいのはもちろん、私もあいつの声が聞きたかった。結局は我慢したけども。

正直、涼太が心配だ。あいつはバカみたいに無理するから。バカみたいに無理するくせに、それを隠してへらへら笑うから。心配かけないためなのか、はたまた踏み込ませないためなのか。きっとどちらでもあるんだろうけど、でももっと気を許したっていいじゃないか。私でも先輩たちでもいいから、もっと素のままの黄瀬涼太を見せてくれればいいのに。

「!」

会場の喧騒に肩身の狭い思いをしていると、ポケットに入れっぱなしの携帯が振動した。予想通り涼太からの着信で、慌てて会場から出て静かなところで電話を取る。

『菜緒』

ああ、こいつの声、なんて久々なんだろう。思いの外涼太の声は落ち着いていて、なんだか違和感を覚えるくらい。

『来てる?』
「うん、来てるよ」
『…ごめん、連絡取らなくて』
「大丈夫」

取らなくて、ってことは、取れなかったわけではないんだ。それくらい、集中したかったんだ。やっぱり我慢して正解だった。

『…あのさ、ちょっと会えないスか?』
「え?」
『ちょっとでいいから。菜緒に会いたい』
「…どこにいる?」

涼太の居場所を聞いて、電話を切った。それと同時に足が動く。早く、早く会いに行かなきゃ。
涼太の声は、怖いくらいに落ち着いていて。あいつはしんどい時ほど取り繕うやつだから、きっと今、結構キツいんだと思う。電話で言われた場所に駆け足で向かうと、見慣れた金髪が壁に寄りかかっているのが見えた。

「涼太!」
「…菜緒」

海常のジャージに身を包み、こちらを見て涼太は笑った。その笑顔に胸が締め付けられる。こいつに会うの、本当に久しぶりだ。
目の前まで駆け寄ると、涼太は私を抱き締めた。突然の包容に戸惑うも、その背中に腕をまわして抱き締め返す。トクトクと涼太の心臓が脈打っていて、その心地好さに目を閉じた。
涼太は私を抱き締めたまま、何も発することはなかった。ただただ、強い力で私の身体に縋りつくだけだった。

「…西側三列目の一番端に座ってるから」
「…ん」
「ちゃんと、見てるから」

涼太の背にまわした腕に力を込めれば、涼太も同じように私を抱く力を強めた。
…頑張れ、とは、言わなかった。

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