あれから涼太とは、一度も連絡を取っていない。単純にバスケで忙しいだろうし、なんというか、私から連絡するのは違う気がした。あいつはいつも、本当にしんどい時は何かしらサインを送ってくるから。だから、それがくるまで私は待つべきだと思ったのだ。結局、夏休みが始まってから一度もそのサインは来ないのだけれど。
「はー…」
友達と遊んだりはするものの、そんな毎日予定があるわけでもなくて。涼太からいつ連絡が来るかもわからないし、私は比較的暇な夏休みを送っていた。今も、特にすることがないのでアイスをかじりながら課題に勤しんでいる。暑さからか集中力がもたなくて、あんまり捗ってはないけど。
「…りょうた、」
なんとなく呟いて、小さく溜め息をつく。まだ夏休みが始まって一週間程度とはいえ、あれだけ毎日会って触れられてれば、会わない日常に違和感を抱くのは仕方ないと思う。…涼太、どうしてるかな。
きっと無理してないわけはない。あのバカのことだからどんどん練習を積んで身体に負担をかけてるのだろう。けど、あいつのあんな顔見たら、やめろなんて言えなくて。終業式の日のあの表情は、今も鮮明に脳裏に焼き付いていた。
「…会いたいよ」
その試合があいつにとって、どれほど大きいものなのかはわかる。だから私は邪魔しちゃいけないのも、わかる。でも、仮にも彼氏であるあの男に会えないのはいくら私だって寂しくて。あいつの温もりとか触れ方とか、そういうのが恋しくなってきてしまうのだ。
まさかこんな気持ちになるなんて、春は思いもしなかった。性格悪いし女遊びばっかしてるし、なんかどことなく周り見下してるし。そんな奴のこと好きになって、こんなに支えてあげたいと思うなんて。そしてそれを出来ない自分に、不甲斐なさを感じるなんて。こんなの柄じゃないけど、でも本音だから仕方ない。
バスケのことは私にはわからないし、簡単に踏み込めるものでもない。というか、たぶん踏み込んじゃいけない。だから私に出来ることは、あいつがボロボロになった時、帰ってくる場所を作っておくことだ。私があいつの、帰る場所になってやらなきゃ。寂しいなんて、言ってる場合じゃないんだ。
どんどん溶けてくるアイスが、課題のプリントにポタリと垂れた。