映画を観終わってから(最後全く観れなかったけど)、二人でのんびり話したりして、一緒にご飯作って食べて、またのんびり。新婚みたいっスねなんて言ってくるから叩いてやったけど、実は私もそんなことを思ってた。

「ねえ黄瀬」
「…あのさ」
「へ」

黄瀬は少しだけ溜め息をついて、私の真正面に腰を下ろした。真剣な顔で見つめられて、何かしてしまったのかと思考を巡らすも思い当たる節はない。黄瀬がこんな顔をする理由が本当にわからなかったので、次の言葉を促すように見上げた。

「俺は菜緒のこと菜緒って呼んでんじゃん」
「うん」
「菜緒は?」
「は」
「黄瀬、じゃそろそろ嫌なんスけど」

何を言い出すかと思えば、そんなこと。琥珀色の瞳はしっかり私を捉えていて、視線を逸らすことは出来そうになかった。
つーか、あんたが私を名前で呼んでんのはあんたが勝手に言い出しただけであって、私が頼んだんじゃないだろ。とは残念ながら言える雰囲気ではないけれど、でもそんな意味わからんとこにフェアを求められても。…ていうか、普通に、単純に、

「恥ずかしい、じゃん」
「何を今更。さっきだってあんなキスしたのに」
「それ以上言ったらぶっとばす」
「えー」

思い出しただけで顔が火照ってくる。黄瀬の舌の感触とか、混ざり合う唾液の音とか。恥ずかしくなって一度目をぎゅっと瞑ると、その隙に黄瀬の手が後頭部に差し込まれた。慌てて目を開けるも、そこには既にギリギリまで顔を近付けた黄瀬がいて。

「ね、呼んでよ」

吐息がちな声で呟かれ、びく、と肩が跳ねる。乞うような言い方ではあるけれど、その圧力は懇願というよりもはや命令で。それでも悔しくて首をふるふる横に振ると、黄瀬はにやりと口角を上げ、私の唇を一舐めした。

「っ!」
「ほら、涼太って呼んで」

くっそ、なんでこいつこんなに楽しそうなんだよ。余裕の笑みが癪でぎろりと睨むも、今のこいつにはなんでも楽しい要素に変換されてしまうらしい。後頭部に廻された手にぐっと力を込められ、私と黄瀬の唇が触れた。

「っ、ふ、あ」

咄嗟に唇を閉じようとしたが、黄瀬が私に舌を差し込む方が早かった。舌を引っ込めて反抗するもすぐに絡めとられ、ざらざらとした表面が交わり合う感覚に背筋が震える。角度を変え何度も交わる唇と舌。徐々に何も考えられなくなっていって、目尻からは涙が伝っていて。早く終わらせてくれ、と薄目を開ければ、同じように薄く目を開けていた黄瀬と視線が絡まって。ぎらりと光る黄瀬の瞳に、お腹の下のあたりがきゅう、と変な感覚に陥るのを感じた。

「ほら、呼んで」
「…っ」
「強情っスね」

尚呼ばない私に痺れを切らしたのか、黄瀬は私の首筋にゆっくりと舌を這わせた。びくりと身体が跳ねるもそんなのお構いなしで、わざと音を立てながら首にキスをし、舐める。黄瀬の舌の動きが擽ったくて、そして恥ずかしくて。黄瀬の肩を押すと、気に入らなかったのかもう片方の腕を腰に廻され抱き寄せられた。剥き出しの鎖骨に沿うように舌を這わされ、先程の変な感覚が全身を襲う。もう限界、というように首を振ると、黄瀬はそんな私を楽しそうに見上げ、そして耳に唇を寄せた。

「やめてほしい?」
「んっ、」
「じゃあなんて言うんスか?」
「…りょ、うた」
「…よく出来ました」

渋々奴の名前を呼ぶと、黄瀬は満足そうに笑って私に口づけた。今度は触れるだけの、優しいキス。…こいつに触れられたところが熱い。唇も、首も、鎖骨も、後頭部に腰だって、全部が熱い。慣れないことが立て続けに起こるから、もう頭も身体も全然ついていかない。私のペースに合わせるっつつたの誰だよ、と咎めると、ごめんごめん、と黄瀬は眉を下げて笑った。

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