※黄瀬誕


6月18日である今日は、言わずもながな黄瀬涼太の誕生日である。彼女である私は記念すべき彼の生まれた日をお祝いしたいところだけど、インターハイの練習がどうとかで一緒に帰ることすら叶わなくて。待ってようと思ったけど遅くなるからと断られ、部室の荷物の上にプレゼントとメモだけ置いて帰ってきた。彼氏の誕生日すら祝わせてもらえないなんて、こんなことがあっていいのか。

「はーあ…」

一緒に帰って、あわよくば手も繋いで、別れ際にプレゼント渡すはずだったのにな。一人で浮かれちゃって、なんだかバカみたいだ。
彼が練習試合で負けてから本気でバスケに打ち込んでることは知ってた。私はバスケをしてる黄瀬を好きになったから、それに不満はないけれど。でもやっぱり、今日のことはショックだった。ベッドにだらんと寄っ掛かりながら、壁掛け時計に視線を向ける。夕方に帰ってきたはずがいつのまにやらもう夜で、ああ、黄瀬の部活もそろそろ終わった頃かななんて。
もういいや、お風呂入ってさっさと寝ちゃおう。そう思って立ち上がった瞬間、帰るなりベッドに放った携帯が震えた。もしかして、と期待してしまう自分はどこまで黄瀬のことが好きなんだろう。慌てて携帯を手に取ると、そこには大好きな彼の名前が表示されていた。どきんと胸が高鳴って、すぐさま通話を開始する。

「も、しもし!」
「あ、なまえ。ちゃんと帰れた?」
「帰れないわけないでしょ」
「でもほら、心配じゃないスか」

送ってあげられなくてごめん、と告げる黄瀬の声は、いつも他の人と話すみたいに高くて明るい声じゃなくて。私と話す時のこの静かで落ち着いた声が、どうしようもなく好きだった。私にだけ、気を許してくれているようで。

「気にしないで。部活お疲れ様」
「ん、ありがと」
「今日はどうだった?」
「いやー、また先輩にシバかれちゃって」

こんな風にいろんなことを話してくれるだけで少し気が晴れてしまうんだから、単純だなあと我ながら苦笑する。嬉々として話す黄瀬の表情が目に浮かぶようで、私も嬉しくなってきて今度は苦笑ではなく笑みが溢れた。やっぱり私は、バスケを好きな黄瀬が好きだ。

「あ、そうそう、プレゼント置いたのなまえでしょ?ありがとね」
「あ、うん」

名前も書かずに置いといたのに、黄瀬は私からのプレゼントだとわかってくれたらしい。まあメモは添えたから、字で判断してくれたのかな。私の字をちゃんと知ってくれてるというだけで、ここまで嬉しいなんて。…まあ、やっぱり直接渡したかったけれど。

「…で、俺まだ聞いてないんスけど」
「え?」
「一番言われたい子から言ってもらえないんじゃ、やっぱ物足りないっス」
「…ごめん」

私だって、言いたかったよ。プレゼント渡して、満面の笑みでおめでとうって、言いたかった。でもそれが叶わなかったから、メモに書いておいたのに。紙面でのお祝いでは、黄瀬は満足出来なかったらしい。でもね、仕方ないってわかってるけど、私も直接言いたかったんだよ。喉まで出かかった言葉を、ぐっと呑み込んだ。だって本当に仕方ないから。黄瀬の部活の邪魔はしたくないもん。

「…俺こそごめん。一緒に帰れなかったからっスよね」
「ううん。黄瀬、おめでとう」
「…ねえなまえ、俺直接聞きたいんスわ」
「え?今言ったじゃん」
「外、見て」

え。黄瀬の言葉に驚いて、慌てて窓から顔を出す。家の前でこちらを見上げる黄瀬は、にこっと笑って私に手を振った。なんで、部活で疲れてるはずなのに。早く帰って休みたいはずなのに。なまえに会いたくなっちゃって、と携帯越しにはにかむ黄瀬に、涙が溢れそうになった。きっと、私が寂しがってるの、わかってたんだあの人は。だから会いに来てくれたんだ。気付いたら部屋を飛び出して、階段を駆け降りていた。プレゼントのピアスをつけた黄瀬に抱き締められるまで、あと10秒。


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