「あれ、なまえっちまた追試〜?」
「おまえもな」

期末テストを終え校内の誰もがのびのびと過ごしている中、私は別室に呼ばれ筆箱から筆記用具を取り出していた。最後の悪足掻きで単語帳とにらめっこしていると教室のドアががらりと開いて、そこから入ってきたのはお馴染み黄瀬涼太だった。こうも追試で顔を合わせればさすがに仲良くもなるというものである。

「ちょっとしっかりー」
「勉強はまあオッケーな黄瀬くんこそしっかりー」
「俺は本気出せばいけるっス」
「じゃあ出せよ本気」

本気出せばなんたらとか言う奴は決まって今が限界値である。つまりこれ以上の結果なんて出ねーんだよバァカ。私はこのバカとは違ってちゃんと勉強もするしちゃんと成績もとる。ただちょっと風邪引いたり寝坊したりして結果を出す以前に挑むことすら出来ないだけだ。こいつとは違う私はバカじゃない。

「青峰は」
「屋上で寝てる」
「起こしてやれよ」
「やだよあの人寝起き悪いんスから」

もう一人の追試仲間の青峰はどうやら追試どころか追追試確定のようだ。あいつ進級出来んのか。

「あんたも一緒に受けてやんなよ、友達でしょ」
「あんたこそ落として一緒に受けろよ」
「やだよ私はきみらと違って頭いいもん」
「ほざけ追試常習犯が」

やだこいつファンの子たちに対する態度と私に対する態度違いすぎる。あんなに笑顔振り撒いて黄色い声援貰ってるくせになんで私にはこうなわけ。

「つーかなに悪足掻きしてんスか」
「だから私はきみらと違って真面目だから」
「俺にも見して」

ずい、と黄瀬の顔が近付いて、私の単語帳を覗く。なにこいつなんでこんな近いの。なんかキツすぎない香水のいい匂いするしちょっとドキッとしちゃったじゃんかくっそ。こんなん相手になにときめいてんだ私は。そんな私の心理を知ってか知らずか黄瀬はずいずい寄ってきて、なんか焦って退く。

「近いんですけど」
「なに意識してんスか」
「ここまで寄られたら嫌でも意識するだろ」
「惚れちゃった?」
「会話しようぜ会話」

言葉のキャッチボールが全く出来てねえ。もういいよ単語帳なんかあげるから近寄んないでくれよ。私は追試を受けにきたのであって黄瀬にナンパされにきたのではない。もう頼むからあっちいけ。

「鈍感っスねー」
「は?」
「俺が毎回追試受けにきてるのは何故でしょう」
「バカだから」
「即答かよ」
「即答だよ」
「残念でした。ちゃんとした理由があるんスよ」

私の輪郭に指を這わせて、艶っぽい視線を向けてくる。あ、やばいこれモデルの本気。視線を逸らせなくてあわあわしている間に黄瀬は妖艶に笑って、赤い舌を見せて笑った。

「なまえに会うためっスよ」

ちょっと意味がわかんないです思考停止です。まじでなんで青峰寝てんだよなんでいねーんだよつーか先生こいよそろそろ時間だろ。気付けば単語帳は手から滑り落ちていて私の脳みそは黄瀬でいっぱいになっていた。黄瀬が私から離れ隣に腰掛けたタイミングで先生が入ってきて追試が開始されたわけだけどぶっちゃけ追試どころじゃないし直前にぶっこんだ知識全部飛んでこれはもう青峰と仲良く追追試確定です。

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