※黒子誕


私には、幼馴染みがいる。影が薄くて、大人しくて、あまり自己主張をしない彼。そんな彼が唯一熱くなるのはバスケで、バスケをしている時だけは普段変化の乏しい表情も目まぐるしい変わりようを見せた。彼がバスケに夢中になるのを、私は嬉しく思う反面、寂しくも感じていた。私の知らない彼が増えて、彼の魅力に気付く女の子も現れて。そうなったら、もう一緒にはいられなかった。次第に口をきかなくなって、別々の高校に進学して。彼は部活があるから朝も帰りも会うことはなくて、もはや関わりが無くなったと言っても過言ではなかった。なのに、

「なまえ」
「…テッちゃん」
「久しぶり、ですね。一緒に帰りませんか?」
「…う、ん」

駅からの道を歩いていたら、どういうわけか幼馴染みに、黒子テツヤに遭遇してしまったのだ。一緒に帰らないかと誘われてしまえば断るわけにもいかず、テッちゃんと並んで歩いている。いつの間にか彼は背が伸びて、しっかりと男の子の身体になっていた。帝光とは真逆の色使いの、あまりかっこいいとは言えない誠凛の制服に身を包むテッちゃん。私の知らないテッちゃんが、どんどん増えていく。

「…本当に久しぶり、ですね。進学してからは一度も会っていませんし」
「…そ、だね」
「なまえが高校の制服を着てるの、初めて見ました」
「私も、学ランのテッちゃん、初めて見たよ」

マフラーに顔を埋めながら、表情を悟られないよう必死に隠した。今さら、どんな顔をすればいいのかわからなかったのだ。

何故、今日という日に会ってしまったんだろう。普通の日だったらまだしも、どうして、この日に。
言いたい気持ちはもちろんある。けど何か用意しているわけではないし、なんだか今さらな気がしてしまって。考え込んでいるうちに歩みはどんどん進み、気付けば私の家はもう目の前だった。

「…じゃあ、風邪ひかないでくださいね。近頃冷えますから」
「うん、テッちゃんも」
「ありがとうございます。それでは」
「……テッちゃん!」

踵を返すテッちゃんを、思わず呼び止めた。彼は不思議そうな顔を浮かべている。私も、呼び止めてしまうなんて自分で自分に驚いた。けれど、今、言わなくては。

「どうかしましたか?」
「…あのね、テッちゃん、誕生日おめでとう」
「…!覚えててくれたんですか」

忘れるわけがないじゃないか。大事な大事な人の誕生日なんだから。言ったら何故か胸がいっぱいになって、涙がぽろぽろと溢れ出した。自分でも訳がわからなくて、焦って目を擦る。するとその手をそっと取られ、テッちゃんの綺麗な指が私の涙を優しく拭った。

「テッちゃ…」
「どうして泣いてるんですか」
「わ、かんなっ」

焦れば焦るほど涙は止まらなくて、テッちゃんの手をどんどん濡らしていった。

「…なまえが、覚えててくれるとは思いませんでした」
「っ、忘れるわけ、ない、でしょ」
「会うこともめっきりなくなりましたし、影の薄い僕のことなんか、とっくに忘れているのかと」
「それも、忘れるわけ、ない」

忘れられるわけがない。むしろ、今まで毎日テッちゃんのことを考えてきた。友達出来たかなとか、部活で倒れてないかなとか、彼女出来たかなとか、いっつも考えてた。けど連絡なんて出来なくて、それでもやっぱり気になって。嗚咽を洩らしているとテッちゃんの手が私の涙を拭うことをやめ、その手は私の背中へと回っていた。状況を理解するのに時間を要したが、これは、抱き締められている。

「なまえが離れていってから、毎日なまえのことを考えていました」
「テッちゃ…」
「僕が何かしてしまったのか、何度も考えたけどわからなくて」
「ちが、」
「…寂しかった」

ぎゅう、と、テッちゃんの腕に力が籠る。テッちゃんが、こんな風に考えていたなんて。私のせいでテッちゃんに、寂しい思いをさせてしまっていたんだ。

「ごめん、テッちゃん」
「…」
「テッちゃんが、どんどん知らない人に、なってくみたいで」
「え?」
「バスケに夢中になって、友達もたくさん出来て、なんか、遠く感じて」
「…それで、離れていったんですか」
「うん、ごめんね」
「…バカです、なまえは」

テッちゃんが私にそんなことを言うのは初めてだった。いつも優しくて丁寧な言葉を使うテッちゃんが、私を、バカだと言った。別に全然構わないけれど、突然のことに驚く。

「バスケが好きでも、他に友達がいても、僕は僕です。影が薄くて、冴えなくて、なまえの幼馴染みの黒子テツヤです」
「テッちゃん…」
「…お願いですから、離れていかないでください。なまえが、好きです」
「…え」

そっと身体を離されて、テッちゃんに見つめられる。好きって、テッちゃんが、私を?そんな奇跡が、あっていいのだろうか。震える手でテッちゃんの制服の裾を掴みながら、必死で口を開いた。

「私も、好き」
「…!」
「ずっと、ずっと好きだった」
「…なまえ」

最高の誕生日プレゼントです。そう言って、テッちゃんは私に口付けた。むしろ、私がプレゼントをもらった気分だ。離れていた時間を埋めるように抱き合い、今の幸せを噛み締めた。

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