次の日、黄瀬は学校を休んだ。らしい。黄瀬のクラスの女の子が廊下で話してるのを小耳に挟んだだけなんだけど。 昨日あのまますぐに別れ、黄瀬は部活に、私は自宅に向かった。黄瀬の悲しげな表情とか、いろいろ気になる部分はあったけど、結局は私には関係ない。昨日言われた通り前より黄瀬のことを考える時間が増えたことは確かだが、好きになったのかと言われればそれは別だし特に気になってるわけでもない。あれだけ毎日つきまとわれれば考えざるを得ないというだけ。強がりとかじゃなくて、これは本音である。
『休んでんだって』
送信、してしまった。関係ないなんて言っときながら、放っておくことも出来なかった。アイツがどうなろうと知ったこっちゃないけど、昨日のあんな顔を見てしまっては、しかも私のせいともなれば、さすがに心配はするしそれなりに罪悪感もある。…や、でも急にキレられただけだしな。私別に悪くない、よなぁ…。 うーん、と唸っていると握っていた携帯が震えた。やばいサイレントにすんの忘れてた。設定を変えてから、受信したメールを開く。つーか返信早いな。
『風邪引いた』
風邪、か。昨日のことが原因だと思っていたから、少しだけ気が軽くなる。…けど、本当に風邪なのかな。お得意の嘘なんじゃないのか。まあ本人がそう言うなら別にいいんだけどさ。
『へー。お大事に』 『ドーモ。つーかなんで知ってんスか』 『あんたのクラスの女子が騒いでた』 『ふーん。てかマジつらいんスけど』 『寝ろよ』 『看病して』 『親に頼めハゲ』 『一人暮らしなんス』 『じゃあファンの子にでも頼めば』 『悪化するっスよ』 『最低』
先生の話もろくに聞かず、早いペースで返ってくるメールに返信をする。とっくに授業は始まっているというのに、何をしてるんだ私は。 つーか、一人暮らしなんだ、アイツ。高校生のくせして。黄瀬のことなんてあんまり知らないけど、バスケの推薦でこの高校に来たということはさすがに知ってる。県外の中学だったのかな。にしても、寮じゃなく一人暮らしってあたり、やっぱりイヤミな奴だ。
『昨日、悪かったっス』
何の脈絡もなく送られてきたそのメールに、一瞬目を見開いた。黄瀬が、あの黄瀬が、謝るなんて。びっくりしすぎて声出るところだったわ。とりあえず返信画面を立ち上げるも、なんと返せばいいのかわからず、そのまま数分。これは、どうすればいいんだろう。
『別に』
あまりの無愛想さに自分でも引いてしまう。まあ黄瀬相手に愛想振り撒く必要ないけど。でも、別に私は悪いことしてないし、かと言って全く気にしてないわけじゃないし、なんてぐるぐると考えて出た結論がこれである。我ながらひどいもんだ。送信されたメールを眺めていると、だらだら悩んでいた私とは対照的に即行で返信がきた。
『愛想わる(笑)』
普通に見たらいつも通りの軽い反応だけど、何か、おかしい。そう感じた。 私の勘なんて当てにならないと言えばそれまでだけど、どうしてか違和感を覚えたのだ。確かに普段のへらへらした黄瀬だけど、でも、何かが違う。
『どうしたの』 『なにが?』 『なんか変』 『別にいつも通りじゃないスか』 『無理に明るく振る舞ってるように見える』 『んなことねーよ』
淡白な文面を見つめていると、頭をちらつく、昨日の表情。…このままじゃ、だめな気がした。
『家、どこ』
本当に、どうしたんだ、私は。
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